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好きなのは君以外考えられなくて(橘視点)
静かな部屋に携帯の着信を告げる電子音が鳴り響いた。
橘の意識がゆっくりと戻ってくる。
だが、手を伸ばしてみても届く範囲に携帯は無く虚しく空を掴むばかり。
そのうちに、ふつりと切れてしまった電子音を夢うつつに感じながら重たい瞼を開くと、視界いっぱいに雪哉の顔がみえた。ぎょっとして僅かに身を引くと首がミシリと痛み思わず顔をしかめる。
(あぁ、そうか。俺は萩原と……)
散々お互いの身体を貪り合った後、意識を失うようにして眠ってしまった雪哉の寝顔を見ているうちに、どうやらいつの間にか自分も寝落ちてしまっていたらしい。
まだ夢見心地で実感が湧かない。何気なく雪哉に視線を移すと、首筋や胸元にさきほど付けた徴がくっきりと残っている。
改めて先刻の出来事が夢ではないと実感した途端、体温がぶわっと上がった。
「う……ん……さむっ」
小さくふるりと身体を震わせて、雪哉が擦り寄って来た。まだ寝ぼけているのか抱きつくように足や腕が纏わりついて来て、橘は硬直して動けなくなった。
寝息が首筋にかかり体温が伝わってくる。艶めかしい営みのあれやこれやがフラッシュバックして蘇り思わずごくりと喉が鳴った。
心臓がバクバクと早鐘を打ち、掌には嫌な汗をかく。ぎこちない手つきで抱きしめ返すと腕の中で雪哉が「んっ」と小さく身じろぎをした。
伏せていた切れ長の瞳がゆっくりと開き、橘の姿を捉えた瞬間、ギョッとしたように大きく見開かれた。
「よ、よぉ」
「……っ、びっくりした……」
ぎこちなくはにかんで、目が合った瞬間さっと視線を逸らされてしまった。雪哉の白い肌が耳までほんのり桜色に染まっている。
意識してくれるのは嬉しいが、なんだかこっちまで照れてしまう。
「つか、重いから早く退けよ」
「あ、わ……すみません」
湧き起るいろんな感情を誤魔化すようにぶっきらぼうにそういうと、雪哉は慌てて抱きついていた身体を離した。
部屋に広がる微妙な空気がなんだかもどかしくて、橘はゆっくり起き上るとその辺に散乱している服を雪哉に投げてよこす。
「取り敢えず、服を着ろ」
服を受け取った雪哉がぽかんと口を開けて橘を見て、そして改めて自分の姿に視線を移した。
「あ……凄い、いつの間にこんなに」
体中に付けられた徴がなんとも卑猥に見えて、目のやり場に困ってしまう。
「…………コレ、消えて欲しくないな……」
「んな――っ」
雪哉がほぅっと溜息を洩らし、橘によって刻まれた所有の徴を指でなぞる。その表情は何処か嬉しそうで、治まっていたはずの熱が沸々と全身を包んでいく。
「おまっ、馬鹿な事言ってないでマジで早く服着ろよ!」
このままでは、また勢いに任せて押し倒してしまいそうだ。
理性を総動員して抑えていないと、また止まらなくなってしまいそうで橘は慌てて雪哉に背を向けた。
そう言えば、今何時くらいだろうか? 辺りは既に暗くなってしまっている。
そう言えば、さっき電話が鳴っていたような気がする。スマホを開くと、数分前に鈴木からLINEの不在着信が入っていてぎょっとした。何件か残っているそれは全て鈴木からで戻りが遅い事を心配した安否確認のメッセージが数件入っていた。
慌てて時刻を確認すれば、時刻は20時を回ろうとしている所だった。 取り合えず、日付を跨いでいなくてよかった。危うく雪哉を無断外泊させてしまうところだった。
鈴木に連絡が遅くなったことへの謝罪と、雪哉と一緒に居ることを手短にLINEで伝えスマホを近くにあったローテーブルへと軽く放り投げた。
名残惜しいが、そろそろ雪哉を家に送ってやらなければいけない。幸い、明日は土曜日だ。荷物は明日取りに行けばいいだろう。
そんな事を考えていると、不意に手が伸びてきて後ろから抱き着かれた。
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