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$1.イカサマな日常②

 『お疲れさ、、失礼します』    広い空港の清掃員は100人以上いて24時間交代制で勤務する。その日のそれぞれ与えられた持ち場をひたすら清掃し一日中ゴミや汚れと向き合う。意外と真面目で上司の評価のいい忽那初人(くつなはつと)はこの仕事が嫌いではなかった。  初人が管理事務室に顔を覗かせると真剣に仕事してるかと思いきや、パソコンでエロサイト覗いている50代のベテラン上司。誰もいないと思って好き放題やっているが、逆に好都合だと顔が緩む。    「なになに?新任女教師……の…イケナイ課外…授業」  「ッ、、ビックリした!!忽那!!何だよ、黙って入ってくるな!」  「いやノックしましたし挨拶もしましたけど」  慌ててパソコンのマウスをクリックし業務画面に戻した。この50代エロ上司は清掃一筋20年のベテラン、ただニ年前にヘルニアを患ってから事務の方へ移った。 ここには清掃道具一式が揃っていて、そして落とし物や忘れ物の遺失物管理をする場所。ここに出入りするのは清掃員くらいだ。  『今日の分持ってきました』  「じゃパソコンに記入して倉庫に持ってってくれ」  『えー俺がですか?またサボってー』  「俺は腰が痛いんだよっ」  本来であれば一つ一つ確認してそれぞれの位置に収納までが管理の仕事。ただこの怠慢エロ上司のおかげで初人にとっては格段に仕事がし易くやっていた。仲良くしてるのはそのせいでもある。  『はいはい、わかりましたよ。とりあえず先に倉庫行ってきます』  そう言って手渡しで鍵を預かると歩いて裏の巨大倉庫へ向かう。毎日あらゆる物がこの倉庫に追加される。大抵は持ち主も現れない衣類や雑貨などだが、その中でも(まれ)に金目の物がある。  ずらっと並んだ大きなラックの間をゆっくり歩きながらに初人は目を光らせる。ブランド品の女性用化粧品ポーチが目について、中のタグや縫い目ファスナーやビスの形状をチェックする。  『これは本物っと。今日の収穫はこれくらいか、、大した金額にはならないな』  そう言って倉庫から出ると鍵をしっかり閉めて飛行機の機体の音を聞きながら管理室に戻った。  『はい鍵、ありがとうございました。あー…それと名札を無くしたかもしれなくて、新しいのって出してもらえます?』  「ばかっ、失くしたのかよー!拾われて悪用でもされたらどうすんだ。」  『今後は気をつけますってー』  上司の真後ろにあるパソコンを使って拾得物を打ち込む。作業しながらここで上司と雑談するのも日課。話しながら細かく色、サイズ、形、ブランド名など入力する手間がかかる作業でもある。  「忽那そう言えば数時間前に騒がしい黒いスーツの集団いただろ?見たか?」  『見ましたけど』  見たなんてもんじゃなくて、まさに名札を失くした原因はその黒スーツ集団のせい。思い出すとまた腹が立ってしまいそうになるが"もう忘れよう"と初人は無理やり笑顔を作って話を続ける。  『えー?あれだけの集団ならハリウッドスターとかですか?』  「残念!それならオレもこんな所にいないで走って見に行ったけどな」  『あーそうゆうのダメなんですよ!上の人に怒られますよ』    「聞いたとこによるとー…なんっつったけな?、、エバ?……エゴ…?あー!エボホテル&なんとかって言う社長が到着したらしい」  『エボ?、、ふーん。ピンとこないけど有名な人なんですかね?』  「その業界では有名な人物らしいけど」  『まっ俺みたいな最下層の人間には関係ない世界ですけど』  「そんな悲しい事言うなよ、若者よ」    初人は制服の中に隠したポーチで少し不自然に膨らんだお腹を気にしながら入力を終わらせる。そして肝心なのが倉庫から盗んだ物の消去。一覧から探しすとすぐ見つかり消去した。    『それじゃ、俺今日はこれで上がりなんで』  「おい、忽那!待てっ」  『………はい』  突然声を上げた上司に一瞬ヒヤッとした初人は椅子から立ち上って背中を向けたまま答えた。  「エロ動画見てた事は誰にも言うなよー」  『ー…もちろんですよ。それじゃイケナイ課外授業続き楽しんで下さい!失礼します』

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