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$1.イカサマな日常④
「初人おはよっ!」
背後から声がして振り返ると、長い髪をギュッと一つに結んで小柄な身体でせっせと自転車を漕いで追いかけてくる幼馴染の緒川美南 がいた。
『おはよう。これからバイト?』
「うん。初人も空港に?」
並走しながら途中まで同じ通勤路を行く。初人と美南は同じ市営住宅で小学校の時から同じ片親と言うこともありそれ以降、お互いの家を行き来したりたまに相談相手になったりいわゆる腐れ縁の仲だ。
『そう言えば曲出来た?』
「あっ覚えてたんだ、、忘れてるのかと」
『何でだよ覚えてるって。完成したら聴かせてくれるって約束したじゃん』
「まあね。んー…もう少しってところかな」
シンガソングライターを目指し自作曲を作って小さなライブハウスで時々ギター片手に歌っている美南。小学生の時から教室や道端やアパートの踊り場までどこかしらで歌っていて、そのまま大人になったような女の子。
初人は美南を応援しながら羨ましくも思っていた。遠くてもすぐに叶わなくとも夢がある事が生きてる意味になるから。自分にはそんなものないしこれからも出来そうにないと初人は美南の漕ぐペースに合わせながら思った。
『絶対聴かせろよな。俺がジャッジするから』
「だって初人あんまり音楽聴かないからわかんないでしょー」
『いいから、いいから!』
そんなたわいもない会話をしながら途中の道で別れた。お互いボロボロの自転車が子供の頃からの変わらない生活を物語っていた。
空港へ着いてロッカールームを開け、いつもの制服を着て朝礼をして今日の持ち場へ。さっきまで晴れていたのが一変、大雨に変わった。
空港で働く人間にとっては天候は重要。飛行機が欠航・遅延する可能性がある為チェックは欠かせない。とは言え清掃員の初人が直接的に関係する事と言えば濡れた床を拭く手間が増える事くらいだ。
《この度は多大なご迷惑をおかけして心からお詫び申し上げます》
出発ロビーのテレビ画面から聞こえる音声に目を向けた。映るスーツの三人は、見るからに重役のオーラを纏 って苦悶 の表情で記者からの質疑応答をしていた。かなり厳しい質問もぶつけられているが意外にも悠長 に返答しいたのは、ど真ん中に座っていた神崎正吾 というホテルの社長だった。
どうせ火消しの為仕方なく開いた会見だろうと社長の目を見ているとそう感じる。しばらく立ち止ってテレビを見ていたがバカバカしいと初人は次の持ち場へ移動した。
「私、今回EVO泊まろうと思ってたんだけどキャンセルしたのよね。好きなホテルだったからなんかショック」
旅行客の女性がテレビを見ながら友人と話していた。やはり今回の事件でかなりのホテル側のダメージはありそうだ。失った信頼を取り戻すのは困難だろう。はなから安易に信頼なんてしない、、それが傷つかない唯一の防御策だと初人はこれまでの人生で培 っていた。
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