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$3.ここは天国か?地獄か?③

 この仕事を聞いた時はとにかく一刻も早く始めたいと思うあまり、情報なんてほとんど聞かずに勢いだけでここまで来たようなもので事前の情報収集はゼロ。  『、、あー!!そうでした!ド忘れしてました。知ってますよ、EVO Hotelの神崎社長の家でしたよねー何だろ?暑さで頭やられたみたいです。あー、少し休んでもいいですか?』  さすがにそれも知らないまま働きたいなんていかにも怪しい。変に勘繰(かんぐ)られても困ると思い咄嗟に言い返した初人。  「まーそうだな。その格好じゃ働けないし荷物も置きたいだろう。とりあえず寝泊まりする部屋を案内する。あっ忘れてたが、俺は警備担当の江口だ。よろしくな」  『はい、よろしくお願いします』  使用人の住む家は同じ敷地内にはあるものの裏庭を抜けてある程度歩く。最後の踏ん張りだとバックを肩にかけてち千鳥足で江口に付いていく。 歩きながらチラチラと"新入りだ"と興味を持った使用人達の視線を浴びる。みんな黙々と仕事をしていて無駄な話や歯を見せて笑う人はいない。  歩きながら江口は神崎親子の話を初人に聞かせた。すぐにこの家とはオサラバとはいえ最低限の事は知らないと仕事にならないし、とりあえず家主の情報くらいは必要かと初人は耳を傾けた。 しばらく歩いて江口はピタッと足を止めた。  「ここが住み込みのみんなが生活している家だ」  ドーン!と構えた建物はいわゆる"宿舎"のカテゴリーを超えていた。東京の一等地に普通に住めば1Rでも家賃10万は軽く超える。  二階建てで一階にある食堂はここに住む者なら誰でも使える食堂に広いランドリールーム。二階に一人一部屋ずつの各部屋がある。 かなりいいビジネスホテルのような部屋は初人にとっては相当な贅沢だった。 家の中を案内されながらこ子で生活なんて夢の様だと少し気持ちが浮ついた。  「はい江口。わかった、、今から向かう」  誰かと連絡取り合い忙しそうな江口は話終えると鍵を渡される。    「悪いが一人で部屋まで行ってくれ。その階段を上がって上の階だ。部屋番号は鍵に書いてある。あとそれからー…」    「お疲れ様です」  「おっ!波間、ちょうどいいところにきたな。彼は今日からここに住み込みで、部屋も近いから一緒に行ってやってくれ。俺は警備室に戻らないといけないんだ」  さっき庭で会い初人を警備室まで案内した子。二人で何やら話をして、江口はすぐに走って出て行った。完全にいなくなったのを確認すると初人を見てニコッと突然表情を緩めて別人の顔になった。    「さっきはどうも!」  『どうも、、、今日からお世話になります』  「僕は波間夕日(はまゆうひ)。漢字は海の"波"に時間の"間"それから朝日の逆の夕日!って夕日の逆って朝日だっけ?」  『さぁ、、?逆ではないけど、言いたい事は伝わったから大丈夫です』  「あっタメ口でごめん。けど歳も近そうだし久しぶりに仲良く慣れそうで嬉しくて!名前は何だっけ?ちなみにどこの担当?」  『新見慧っていいます。担当は一応、清掃係」  「えっそうなんだ!一緒だね僕も清掃!夕日って呼んで。僕も慧って読んでいい?」  何だか最初会った時のお堅い雰囲気とは違いラフな話方とちょっと天然で抜けた夕日に緊張感も解れてスパイモードを切って初人も話し方を崩した。  「あーでもタメ口は二人でいる時だけね。あまり使用人同士仲良くしちゃダメだから」  『、、何で?』  「わかんないけどそうゆう規則。特に郁さんの前では絶対にダメ!」  だからさっきは敬語だったのか。と何となく薄っすらこの家の家族や使用人同士の関係性が見えてきた気がする。

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