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$3.ここは天国か?地獄か?④

 『んー…とその"郁さん"ってのは確かこの家の息子でホテルの宿泊部門を束ねてる総支配人だったかな?』  「そうそう!よく知ってるね」  『さっきの警備のおっちゃん、、じゃない。江口さんが言ってたから』  「実質ここ今は郁さんしか住んでないからね。まー詳しい説明や仕事内容はまたゆっくり説明するとしてとりあえず部屋に行こう」    家の主は一人。面接した田ノ上も警備員の江口もそして同じ清掃担当の夕日も、最初は身構えたが話いざをしてみると三人とも優しく特に要注意人物って(たぐ)いでもない。とりあえずその"家主だけか"と初人は大人しく目立たぬ様にひたすら仕事をこなしてチャンスを伺う事にした。  階段を上がって真っ白なドアの前で渡された鍵を差し込む。部屋に一歩入ると30平米のフローリングが広がりセミダブルサイズのベッドがある。仕切られた奥にトイレ、バスルームが付いている。テレビや小さな冷蔵庫も用意されていた。 さすがホテルキングと言われる会社の社長宅だけあって使用人の部屋とはいえ神崎邸の景観を崩さない徹底さ。  『すっご!マジでこんな部屋タダで泊まれるんだ、、』  「でしょ?僕も最初は綺麗すぎて逆に落ち着かなかったんだけど人間って怖いね〜今ではもうこれくらい広い部屋でしか眠れなくなっちゃったよ」  『夕日はここに来てどれくらい?』  「僕は2年半。これでも使用人の中じゃ長い方なんだよ。あっ!それと大事な事だけど勝手に外出は禁止だから!許可貰って外出ても門限あったり厳しい決まりが多いから気をつけて」  『ふーん。もし破ったら?』  「それは恐ろしくて僕の口からは言えない!!」  そう言ってブルっと身震いした夕日はきっと規則を破ってそうゆう目にあった人達を見てきたんだろう。とにかくここにいる間はかなり縛りがあって自由も制限されているようで、初人はとりあえずここへ来た目的以上の行動はしないと決めた。  『その、郁さんってこっちの家に来る事はある?』  「うーん……ほとんどないかな。だけど郁さんは自分の趣味思考にそぐわないものが目の届く位置にあるのを嫌うから、万が一来ても大丈夫な様に部屋はいつも綺麗にしてて。あっ、ちなみにこの家の掃除も僕らの担当だから」  『あーうん。わかった』  「それと、そうそう!これ清掃係の制服ね」  夕日がクローゼットを開ける。夕日が着ているもの同じ制服が2セット入っていた。白のシャツに黒のベスト、赤い蝶ネクタイに黒のパンツ。足元にはベージュの革靴があって、ジャージ姿の初人がやっとこの部屋に馴染む容姿になれそうだ。  「仕事中はこれ着てね。間違っても今みたいなジャージ着てウロウロしないように!だらしない格好も郁さんに見られたら怒られるから」  『わかってるって』  鏡に向かって制服を合わせてみる。同じ清掃係でも空港とは全く違うちょっと大人びた制服、そして広く豪華な部屋。初人も何だか大手企業のビジネスマンにでもなったような気持ちで少し胸が躍る。  「あとさ、気になってたんだけどボストンバッグ一個って荷物少ないよね?」  『、、えっ、そう?』  「住み込みするくらいだから長く働くつもりなんでしょ?」  『あ、うん、もちろん。あー…俺部屋ガチャガチャしてんの嫌いだから最低限しか持ってきてない』  「そっか。まぁ必要な物あったら何でも言って、ちょうど部屋真向かいだしね。それじゃ二時間後また来るから少し休んで仕事出来るように着替えておいて」  『わかった。色々ありがとう』

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