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$3.ここは天国か?地獄か?⑥

 「田ノ上さんは郁さんの第一秘書だよ」  『秘書って事はー…会社側の人間なのにここに部屋があるんだ?そう言えばこの人が俺の面接してくれたけど、秘書ってそんな事まですんの?』  秘書って響きに馴染みがない初人は、部屋を見渡して難しい本が並んでいる本棚のタイトルを一つ一つを目で追いながら聞いた。  「僕が聞いた話だと、以前は旦那様の秘書だったらしく、郁さんが今の立場になってから付くようになったみたい。だからお父さんの秘書で以前からよく知ってる信頼出来る人だからこうやって家にまで出入りしてるんだって」  『俺なら絶対ストレス死してる。そんなわがまま息子の側にずっといるとか、田ノ上さん相当忍耐力(にんたいりょく)ある人なんだろうな』  「ははっ。まさにそう!今まで一度も怒ったところ見た事ないし使用人に対しても優しく接してくれる。みんな田ノ上さんの事は(した)ってるよ」  頭も良くて仕事も出来て優しくて慕われる秘書なんて、これぞ少女漫画に出て来る完璧男子。 そんな完璧男子の部屋にはお宝はあるのか。初人は机の上や壁の絵、見える範囲に目を光らせる。  『あーそれで、俺たちはここも掃除を?』  「うん。大体みんな持ち場が決まってる。この部屋の担当は僕じゃないけどね」  『それじゃ鍵はいつも開いてるんだ?』  「基本的には開いてるけど掃除しなくていい時は閉まってるよ。だから閉まってたら入るなって合図だと思って!」  『ふーん。なるほどね』    書斎のような部屋の奥に一つ扉がありこじんまりとした寝室があった。綺麗に整頓されて掃除する箇所なんて無くみえる。  「ここはこんな感じかな。それじゃ次は地下案内しよっか」  『地下もあんのかよ!?』  そう言って二人で部屋を出た。20段程の階段を降りるとまたいくつか部屋がある。夕日は廊下の真ん中で待ち止まると指差しながら説明を始める。  「ここがトレーニングルームで隣がシアタールール。あとは倉庫とか物置みたいな感じかな」  『トレーニングルームって何で?』  「旦那様も郁さん筋トレ好きだからね」  『そう言えば記者会見で喋ってた社長、かなりガッチリしてたな。ここで鍛えてたのか』  「へぇー記者会見見てたんだ?」  『あー…まぁたまたまね』  「中入る?」  『いや、それよりシアタールームの方が気になるかな』  そう言ってトレーニングルーム向かいの扉をあけると昼間だと言うのに部屋は真っ暗。夕日はいくつかのボタンに触れて、クラブのようなブラックライトやピンクの様々な電飾ライトをチカチカさせる。そして目の前にある大きなスクリーン、そして何十人が寝そべられる程の大きなソファーがあった。  『何ここ?スゴイんだけど!』  「すごいでしょ!このシアタールームは映画観るのはもちろん!ここのカウンターでお酒も飲める。いわゆるバーと映画館が合体した感じかな」  『なんかさ本当とんでもない場所来たなって、今頃実家してきたんだけど。、、これもその郁さんの趣味?』  「いやこれは旦那様かな。と言うか……確か奥様が映画好きで旦那様がお酒好きだから夫婦の為に作られたとか」  この時初めて出たワードが気になり疑問に思った初人。そう言えば今まで神崎家の登場人物は二人しか出て来なかった。別に働く以上知る権利だってあるだろうとバーカウンターのウイスキーボトルを触りながらそれとなく聞いてみた。  『、、そう言えば奥さんって?」

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