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$3.ここは天国か?地獄か?⑦
「あー…奥さまは、、郁さんが小学生の時に亡くなったらしい。原因は病気って聞いてるけど」
『そうなんだ……うちと同じだ」
「えっ!?慧もお母さん、、亡くなってるの?」
初人がポロリと口に出したのに反応した夕日。別に隠す事でもないけど、何となく情が移るのは良くないし深入りして身元がバレても困ると口を濁した。
『あーなんて言うか、、うちは離婚!そうそう離婚して母親がいないだけっ!』
「そっか。慧も色々大変なんだ。あっだからここに来たのはやっぱり、、生活費稼ぐ為?」
『うんー…まぁそんなところかな』
確かに"稼ぐ為"に間違いはないが意味合いが違う。ここに置いてあるお酒もさすがこだわりの強い家だけあって、値段3桁に届く程の希少な年代物のヴィンテージワインがいくつか見える。
『それよりさ俺の持ち場はどこ?選べるならこの部屋とか地下がいいな』
「ぶー!残念ながら!入ったばかりの新人の持ち場は屋外って決まってるんだよ」
『えっマジか、、暑いし広いしこんなのほぼ牧場みたいなもんじゃん』
「ははっ。牧場ってうまいね!でも大丈夫!真面目に働いてれば、そのうち郁さんや田ノ上さんに認められて涼し〜い部屋の中に入って来れるからさ」
部屋に入れないんじゃ盗めない、そのうちなんてない。易々やすやすと盗ませてくれないのはさすがのセキュリティーと褒めべきか。初人は部屋をぐるっと歩きながら作戦を練らないとな、、と少し焦りを見せた。
「地下はこんな感じ。あとは2階かな?」
『うん、案内お願い』
二人は地下を出て1階部屋を出て2階へ続く長い階段を上がろうとした。
「そうだ!牧場で思い出した。ここには牛はいないけど、、」
中庭から騒がしい声が聞こえてきたが明らかに人ではなく動物の鳴き声。一匹でおさまる声の量ではないなと初人は階段前にある大きな窓から外を覗いた。
「あっほらほら。ちょうど散歩から帰ってきたみたい」
『散歩って事は飼い犬?、、デカくない?』
人間が散歩されてるんじゃないかと思うほど、リードを引くではなく引かれてる女性が汗をかきながら入ってきた。散歩と言うより運動だろ!の心の中でツッこむ初人。
「この家の飼い犬、ドーベルマン2匹にブルマスティフ一匹。これがなかなか体力のいる子達なんだわ!僕もかなり手こずったし、結局最後まで懐いてくれなかった。そそっ、この子達のお世話も屋外の担当だから頑張ってね!」
『、、なるほどね。番犬って事か』
ここまで徹底されると"まいったな"とさすがの初人も顔を歪めた。
「松永さん!今日から新人入りましたよ」
夕日が女性に手を上げながら言った。凛々しい顔した番犬三匹は初めてみる初人に興味を持ったのか近寄ってクンクンと匂いを嗅ぐ。
「あらっこの子達も歓迎してるみたいね。でも若い男の子が入ってくれて嬉しいわ。ここ仕事は体力かなり使うから。まぁこの子達見れば分かると思うけど」
『はい、、覚悟してます』
「私は松永 沙紀(まつながさき)っていいます。同じ持ち場みたいだからよろしくお願いしますね」
『こちらこそお願いします』
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