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$7.騙しの条件⑤
翌朝いつものアラームで起こされた初人。
眠気は残るが心身の状態は悪くない。父親の事は徐々に解決に向かっている事で精神的に楽になって、熟睡出来たのかもしれない。
そうは言ってもまた安心できない。郁のことだから何を考えてるのか分からない。いつでもここから逃げられる準備はしていて、警戒心はまだ解いてはいない。
「昨日あんだけ食べたのに起きたらお腹空いてるって人間の体ってバカだよな、、」
そう言って洗面室で鏡を見れば数日前の悲惨な顔からは卒業しスッキリした表情。もうすぐ父親と元の生活にまだ戻れる事への期待に胸が躍る。食堂へ向かう足取りも軽くドアを開けた。
「おはようございます!」
『うわっッ!!ビックリした!田ノ上さん、何してんの?』
「郁さんが外出する為、準備して30分以内に中庭に来る様にとのことです」
『は?外出って俺も?何でアイツそうやって勝手に決めてさ、、それで出掛けるってどこに?』
「それは聞いてません」
それだけ言い放ってスタスタと去って行く田ノ上を目で追いながら"めんどくせ"と小さく声を漏らして仕方なく準備を始めた。
30分と言う制限のギリギリ28分で中庭に着くといつもの郁専用車が止まっていて、運転席の横に立つ服部と目が合う。
「おはようございます」
『あ、、おはよう……ございます』
ニコリと微笑む服部の横で、後部座席の窓が静かに開いた。当然顔出したのは郁で腕にはめた高級時計を眺める。
「1分48秒前か。まあ良いだろう。行きたい場所がある、付き合ってもらう」
『どうせ拒否出来ないんだろ。ってか仕事あるしみんなに伝えないと』
「何を言ってる、今はこれが仕事だろう。いいから早く乗れ、誰か来るぞ」
"任務=仕事"これからはそう気持ちを切り替えなければならない。容易くそうできれば楽だが相手が郁なだけに中々切り替えられない。
ドアの前で躊躇して時間を使っていると勤務開始の使用人の姿が見え始め慌てて車に乗り込んだ。
隠れるように、車の中に身を潜める。
「念のために言っとくがこの計画は誰にもバレてはいけない。これからそれを踏まえて行動するように」
『言われなくても知ってるよ。じゃーさこれからもっと目立たない場所に呼び出してくんない?ここじゃ目立ってしょうがなー…』
「これを持て」
文句を言う初人の口を塞ぐ様に顔の前にズンっと郁は何かを差し出した。近距離過ぎてボヤけた視界から初人はゆっくり郁の手の中の物を受け取る。
『スマホ、、?あのさ俺だってスマホくらい持ってるっての!』
「これは仕事専用のだ。常に身につけておけ」
『仕事専用って?』
「呼び出しの電話には3コール以内にとってメールの返信もすぐにしろ。充電は切らすなよ」
『何それ?だっっるる!!いらない返す』
「服部、車出してくれ」
"かしこまりました"と二人のやり取りを聞きながらニコッと微笑んだ服部と初人はフロントミラーで目が合った。
やけに笑顔の服部は何を考えているか読めないが今の時点で味方ではないだろう。ひとまず大人しくして波風立てず周りの状況を飲み込んでからだ。
この仕事はまだ先が見えなくて未知だから。
動き出した車内は郁の長い脚も余裕で組み替えられるほど広さに余裕があり快適な空間。それでも横に並んで座る郁と初人の距離は普通の車と変わりなく、なるべく窓の方に重心を置いて距離を取って顔を合わせない初人。
進むにつれ繁華街に入っていく車はあるお店の前に停車した。ハイブランドばかり入るショッピングビル、店の従業員達は郁の来店を待っていた様に頭を下げて出迎える。
「神崎様、お待ちしておりました」
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