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$8.二人のアルタイル③
郁の呼び出しを受けて全速力で走る初人の視界に郁の姿が入る。腕を組んで待つ郁はパーティの主人公に相応しいシャンパンゴールドにシルクの光沢感が優美さを演出するスーツ。
ただ初人にとってそんな事はどうでもいい。
相手が今日の祝福の主役であってもいつも以上にキメた服装で華やかであっても。
ハアハアと息が上がる初人を落ち着かせる間もなく郁は時計を見てはいつもの口調で淡々と話す。
「遅いな。二分三十秒だ、過ぎてるぞ」
『は?うるせっ、それよりGPSって何なんだよ!ふざけんな』
「目的を遂げた瞬間逃げられたら困るからな。監視は必要だろ」
『逃げねーよ。ちょっとは信用しろよな!ったくちょっとでもいい奴かなって思った自分が馬鹿だった』
初人は小言の様に言ったつもりが苛立ちに任せて声が大きくなってしまったが、ある言葉に郁が反応する。
「俺がいい奴と?」
『あ、いやっ別に何でもねーし。それより呼び出して何か用かよ』
「浅井が来ていて父親のことで進展があるとお前を探していた。着信あっただろ」
『あ、、アンタだと思って最初無視してたの浅井さんだったのか』
無視という言葉にギロッと郁の視線が強く当たるがするり交わした。浅井は何処にいるかと聞くと郁が指を差した先に、中庭で仕事関係の頭の切れそうなインテリ集団の男達と輪になって話は盛り上がっている様子。
『ってかさ浅井さん話中なら何で急いで呼んだんだよ、焦って来た意味ねーじゃん』
「そもそもサボってるのが悪い。おとなしく持ち場に行け。暇ならいくらでも仕事はやるぞ」
『あーもう分かったって!浅井終わったら呼んでくれー…』
「誕生日おめでとう!郁!」
初人の背中から大きな声がして振り返るとすぐ真後ろに聖がいて、ワッ!と驚き体勢を崩して郁にぶつかった。初人の身体に郁のウン十万、いやウン百万するかもしれないスーツと腕時計やジュエリーに飾られた腕にすっぽりと収まる。
『、、えっ!?』
「うるさい。いちいちオーバーに騒ぐな」
『ちょ、ちょっと驚いただけだけだっての!ってか、手離せよ』
バシッと郁の手を払って距離を置いた。聖はそんな二人を見てやはりただの家主と使用人の関係ではないと気付いたが、郁の性格からしてただ気が合うなんて理由で親密になるとは思えない。
仕事でもプライベートでも利用価値があるかないかで人付き合いを決める人間だと知っているからだ。
「あー驚かしてごめんね。さっきはどうも」
『あっ、、』
聖はニコッと笑いかけるがバツが悪そうに初人はチラッとだけ見て顔を逸らす。
「おい、招待した覚えはないがなぜここにいる」
「そうだっけ?けど親族なら来て当然でしょ、親しい従兄弟の誕生日のお祝いだしね」
「よく言えたもんだな、白白しい」
「だけどプレゼントも用意してなくて。あっけど何でも手に入る郁に取って欲しい物なんてないか」
「ふっ、そうだな。強いて言えば誰かさんの顔を見ない事が一番の贈り物かな」
淡々と会話を続けその場の険悪ムードは初人にもすぐ感じた。二人の話を少し聞くだけで犬猿の仲だとすぐ分かり、互いが言葉を発する度に返事決まって遠回しな罵倒の返しを投げつけ合う。
「そうだ、七夕の短冊やってるって聞いたんだけどキミ案内してくれる?」
『俺が?』
「なぜコイツに言う?」
「なぜってそれが仕事じゃないの?おかしな事言うね、じゃこの子はこの家の使用人じゃなければそれ以外の関係か何かかな?」
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