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$8.二人のアルタイル②

 「ん?えーっとー…それ僕に言ってる?」  『そうだよ。どう見たってあんたしかいないっしょ?』  「いつから禁煙?おかしいな、、ここに来るといつも吸ってんだけど誰にも言われた事ないな」  『いいから消してくんない?バレたらこっちが叱られるんだよ』  郁の鬼の形相が脳裏に浮かんで少し焦り気味に言った。(ちり)ひとつ見逃さない綺麗好きな郁がどこで見てるか分からない。煙草の匂いも煙も灰もすぐに嗅ぎつけてくるに違いない、その前にトラブルの根源は早めに処理しておかないと。  「叱られるって誰に?」  『今日のパーティーの主役の人』  「ああ郁ね。君はこの家で働いてる子?大変だね。仕方ないか、あんな家主だもんね』  その口振りから郁と親密さが伺えたが、敵か味方かまだ分からない。素直にポケットから出した携帯灰皿に煙草を入れて消すと"これで良い?"と言わんばかりの顔を初人に向けた。 『どうも』  「悪気はないんだ、ホントに知らなかったから」  『別にいいけど。ってか、ホテルの関係者?』  「僕、神崎聖って言います」  『……神崎?って、、もしかして?』  「郁とは従兄弟で一応ホテルの幹部をしてます」  軽く自己紹介を終えた聖の顔をマジマジと見て敵にしてはいけない相手に"やってしまった"と後悔し口を強く瞑った。  「それはそうと今までは煙草を見過ごしていたのは僕に注意しづらかったからかな?だとしたら申し訳なかったね」  『知らないけど多分そうじゃん。あっ、、じゃないですかねー…』  「いいよ、さっきみたいに普通に喋って。僕そういう威勢の良い子好きだから」  そう言って向けた柔らかい笑顔と発言からは高圧的な雰囲気は一切なく、謙虚で親しげなオーラは神崎家の経営一族とは思えない。まだ安心はできないが戦闘態勢はひとまず緩めた。  『、、じゃ遠慮なく普通に』  「安心して。郁とは従兄弟同士で年齢も近いし仕事も同じでホテル経営をしてるけど仲良いって訳じゃないから」  『でも誕生日パーティーは来るんだ?』  「両親に連れられてね。郁に会ったら何で居るんだって言われそうだけど、これも仕事の一環」    従兄弟の祝福に来たわけではなく、あくまでビジネス的だと淡々と話す。いわゆる同族経営の中にも面倒なゴタゴタがあるんだろうとそんな背景すら感じさせる。ただ初人にとってそんな事には関係もないし興味もない。ただサボり場に先客がいて別の場所を探すかどうするかだ。  『こんなとこでタバコ吸ってていいの?』  「いいの、いいの。一通り挨拶は済んだし、こういう窮屈なの好きじゃないんだ。だから逃げてきた。それより君は?君こそ仕事中だろ?」  『俺も逃げてきたから、あんたと一緒』  「そっか。それじゃ僕達同士って事で話相手になってよ。煙草吸えないんじゃ手持ち無沙汰だし、禁止って言うならそれくらいいいでしょ」  そう言って聖は近づいて距離を縮める。すっかり警戒心が薄れた初人はそのまま受け入れ体制に入った時、ポケットのスマホから嫌な音が漏れ出す。この音の発信元は決まっている。中々気が重くて出ようとしない初人のポケットに指を差した聖。  「何か鳴ってるよ」  『知ってる。、、あーもう!何だよ。もしもし何か用!?』  〈そこで何してる〉  『はっ?そこって?』  〈裏庭にいるだろう、サボるな〉  『ちょ、ッ何でそれを知ってっ!!?』    郁から渡されて持ち始めたスマホが鳴って気怠げに電話に出ると、まさかの言葉にゾワッと鳥肌が立った。 防犯カメラの位置は徹底的に調べ上げていて映っているわけもない。今一度あたりを見回し確認するが直接見ている様子もなく、忙しいパーティーの主役が遠くから簡単に居場所を特定できるのは考えられる限るアレしかない。  『あっ!!まさかコレにGPS仕込んでんのか?!だから場所が分かってー…』  〈今知ったのか。お前ならとっくに気づいてるかと思ったが〉  『ふざけんなよ、プライバシーの侵害だぞ』  〈お前がそれ言うか、説得力がないな。それよりすぐに来い。中庭にニ分以内だ〉  『はっ?ニ分ってそんなのムリにー…あれ?もしもしもしもし?』  耳からツーツーっと電話の切れた音が虚しく鳴るスマホを見て舌打ちをする初人。スマホの画面も見えず向こうの声までは聞こえていないが、電話の主は郁だとすぐに悟った聖。  「あー…もしかして今の電話、郁?」  『うん、呼ばれたから行かないと。それじゃ』  「あっ!ちょっと待ってよ!」    むちゃくちゃな要望にも今はとにかく従うしかない状況で、時間厳守にうるさい郁の機嫌を損ねない為に中庭に全力で走って行った。 そんな初人の背中を見ながら、聖はこれまでこの家で出会った使用人とは何か違うと違和感も感じた。  「郁が使用人に自ら連絡して呼び出し?あり得ない、、あの子、、何者?」

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