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$8.二人のアルタイル

 伝説によると天の川は織姫と彦星を引き離し年に一度太陰太陽暦の7太陰月の7日だけ会うことが許されている。それを"七夕"と呼び願い事を書いた短冊を笹の木に吊るすとその願いが叶うらしい。  『納得いかねー。何であんなロマンのかけらもない冷血野郎が七夕生まれなんだよ』  「それは関係ないんじゃない?それ言うならクリスマス生まれの人は全員クリスチャンかってことじゃん」  『それは外国の話だから知らない。とにかく何か気にくわなんだよなー』  「ねぇ、慧。それよりこの料理はどこに持っていくんだっけ?」  2人がそれぞれ手にした用紙には中庭の図に複雑なレイアウトが書かれている。用紙を広げて決められたテーブルの配置に料理を配膳する。少しでも間違えば家の主にドヤされかねないから気が抜けない。  『うーんと、それは果物だからここだな』  「あとどれだけ運べばいいのかな?」  朝早くから使用人全員でせっせと取り掛かっているのは、めでたく本日七夕に誕生日を迎えた郁の誕生日パーティーの準備。初人も以前から耳には入っていたが想像以上に豪華なパーティーで来客も金持ち揃いのお偉いさんばかりだろうと思うと始まる前から既に疲労する。  『あーダルッ。子供じゃあるまいし誕生日パーティーなんて何でするかねー』  「違うよ。誕生日会とは表面上の話で実際はこれもビジネス一つ、つまり経営者達の交流会みたいなもんだよ」  『何それ、ますます面倒なんだけど、、』  「同業のホテル関係はもちろん、別の業界のお偉いさんもたくさん来るんだ」  『夕日、やけに詳しいじゃん』  「まあね。毎年恒例イベントだし。ここだけの話、粋のいい社長なんかお酒の勢いでチップくれたりするんだ。だから悪いイベントでもないよ』  ヘコヘコ頭下げてゴマすってればポケットにお札の一枚や二枚が増えるならいいか思う事にした。ただの使用人は影を潜めて適当にこなして終わるのを待てばいいんだ。  準備はサクサクとテンポよく進み完璧な会場が出来上がって使用人達はまず最初のひと仕事を終えた。初人と夕日も目の前の豪華な料理の匂いにお腹を空かせながら一旦部屋に戻る。  いよいよ神崎家恒例の郁生誕パーティーが予定時刻通り始まった。そこにいる老若男女全員が高額なドレスやスーツやタキシードを着て腕や首元の肌が輝く時計やジュエリーが手にしたグラスを口に近づけ顔が動く度に煌めきが増す。  部屋から出てきた初人と夕日も一緒に中庭に出てきて豪華なパーティの様子に驚きながら慣れない雰囲気を何とか溶け込もうと改めて制服を整えた。  『スゲーな、やっぱ富裕層のパーティーっていうのは。どれもこれもあまり見ないブランドの貴重なもんばっかじゃん』  「え、何?慧って意外とブランド詳しいの?意外だね。そういうの興味なさそうなのに」  『興味はないよ、勝手に覚えてさ。ってかそれより俺らここにいていいの?』  「ヤバっ!短冊の係だったの忘れてたっ!!」    この日のために用意した大きな笹の木。ゲストに短冊を渡して願い事を書いて貰い飾りつける。 その担当になっていたのを思い出した夕日は急いで走って行った。  一人になった初人は自分の持ち場へ端っこを歩いていく。そうは言っても始まったばかりでゴミなんて落ちてないし自分一人いなくても大丈夫。それに面倒な金持ち達の世話なんて御免だと、最適なサボり場所を探して歩いた。  木が茂ってちょうど涼しい日陰になった裏庭にたどり着いた。長袖をたくし上げて座れる場所はないかと見回すと、普段は絶対にここで感じる事のないアノ匂いを瞬時に察知して更に奥に歩を進めた。  そしてすぐに匂いの元に気付いた。そこに居たワインレッド色のスーツを着たすらっとした背中からアノ匂いと同時に煙が見えて、近づきながら躊躇なく声をあげる。  『あのさ、ここ禁煙なんだけど!!』  

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