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第6章

セシリオのベッドは硬かった。木でできた寝台に毛布を何重にも重ねただけのものだ。 フラヴィオはそこに降ろされる。繊細なガラス細工を仕舞い込むように毛布をかけられ、服を脱いだセシリオに抱き締められる。肉の鎧を纏ったようなゴツゴツした体躯は、見た目に反して暖かく弾力を持っていた。 セシリオの大きな手がゆるりと動いた。フラヴィオの顔や首の付け根、腰のくびれなどを丁寧になぞる。対象を写しとる無機質な動きではなく、まさしく愛と慈しみが込められた愛撫だ。 胸の飾りや蟻の門渡など敏感な場所ばかりではなく、内腿や背骨の浮き出た皮膚などに触れられれば、フラヴィオも知らなかった性感帯が目覚めていく。感じる場所ばかり攻め立てたれ、フラヴィオは堪らず声をあげ続けた。声が掠れてくると、セシリオが口づけてきて口を潤す。 「はっ・・・待って・・・」 フラヴィオは息を乱しながら、腰骨を親指でさするセシリオの手を掴む。 「どうされました?」 セシリオの呼吸も、興奮から浅く速くなっていた。だが「嫌でしたか?」とフラヴィオを気遣うことを忘れない。 「お嫌なら、やめてもよろしいのですよ」 嫌ではない。むしろこれまで寝た誰よりも巧みで優しかった。しかし、過ぎた快感についていけなかったということなど、誰もを魅了し翻弄してきた自負のあるフラヴィオに言えるわけがない。 「フラヴィオ様、沈黙が一番困ります。私は貴方のお顔が見えません。嫌なら嫌とはっきりおっしゃってください」  「・・・嫌、じゃない。続けろ」 追い立てられるような快感からしばし解放され少し落ちついた。セシリオの少し咎めるような口調にフラヴィオはふてくされ唇を結ぶ。が、セシリオの唇に食まれ、フラヴィオの可憐な唇に分厚い舌が割って入る。 上顎の襞をセシリオの舌が往復する。ぞくぞくと背中を羽根でなぞられるような快感が走った。 「ここ、お好きですか」 セシリオの指がフラヴィオの唇を押す。フラヴィオから少し口を開きセシリオの指を迎え入れる。 「前に触れた時も、こんなふうに」 セシリオの人差し指と中指が口蓋をくすぐると、白い肩が微かに跳ねた。触られていた時の反応がセシリオに筒抜けだったことを知り、羞恥に顔を焼かれた。 「お前っ、よもや最初から邪な」 「とんでもない。ただ、覚えていますよ。ここも」 「・・・あっ・・・」 「ほら、そうやって震えて」 セシリオは、フラヴィオの形を写し取りながらも、触れると彼が微かに声をあげたり背中を浮かせたりした場所を覚えていた。そこを手のひらや指先で巡回する。フラヴィオの形を感じとっていたのとは反対に、セシリオの手の感触を刻み込むように。 フラヴィオはあっという間に快楽の渦に飲まれていった。 「セシリオッ・・・来て・・・」 眦を濡らすフラヴィオがセシリオに腰を擦り付ける。先走りがぬるぬるとセシリオの太ももになすりつけられる。 「もう少しお待ちください。楽にしてあげますからね」 香油を塗った太い指が、綻んだ菊座に侵入する。フラヴィオはもういいとかぶりを振って細かな涙を散らす。しかしセシリオは怪我をするといけないからと聞く耳を持たず、フラヴィオの花芯も握る。 彫刻家の手は器用であった。右手で媚肉を解し、左手で花芯を扱き上げる。ピアノ奏者のように左右で違う動きをする手は様々な音階の嬌声を奏でた。フラヴィオは悲鳴のようなソプラノを響かせながら、二度目の絶頂に背中をしならせた。 ぐったりしてフラヴィオから力の抜け切ったところに、セシリオの陰茎が差し込まれる。 充分解したにもかかわらず、その逞しい男根に肉輪の襞は伸び切り引き攣った。フラヴィオは身体を硬くするが、セシリオはその度に金の髪と白い肌を優しく撫でさする。 「大丈夫、落ちついたら力を抜いて。・・・そう、いい子だ」 フラヴィオは幼な子のように素直にセシリオに縋り従った。 圧迫感や入り口の痛みに息が上がる。しかしそれらはセシリオの甘い声に溶けていく。身体の奥から快楽の兆しが見え隠れしてきた。 やがてセシリオはフラヴィオを抱き込み少しずつ身体を揺すり始める。体内でもセシリオの陰茎が動くのを感じ、フラヴィオは一つになっている悦びに震えた。 セシリオのゆったりした律動をフラヴィオの腰が追った。甘い痺れが結合部から広がっていく。 これほど丁寧に快楽を引き出されていったのは初めてのことだった。強張っていた心も身体も解けていく。白い頬は火照って薔薇色に染まり、勿忘草色の目は温めたゼリーのように蕩けていた。唇から熱い吐息が溢れる。 「気持ちいい・・・」 フラヴィオがそう漏らせば、セシリオは口角を微かにあげた。表情の緩んだフラヴィオの顔中にキスを降らせる。 ぬるま湯の中で揺蕩うように二人身体を揺らしていたが、押し寄せる快楽の波が高くなってきた。それに比例してベッドの軋みが激しくなる。毛布の中に熱気が篭り、互いの汗が肌の上で混じり合う。セシリオが息を乱しフラヴィオを腕の中に閉じ込めた。 「すみません、もう・・・っ」 フラヴィオはコクコクと頷き、細い脚をセシリオに絡めた。セシリオは何度か大きく腰を打ちつけ息をつめる。そしてすぐ身体を離そうとするも、フラヴィオの脚はセシリオの腰を捕らえたままで、そのまま引き寄せて胎内にその精を受け止めた。熱い奔流に小さく身体を震わせる。 「ああ・・・いけません。腹を下してしまいますよ」 フラヴィオはふるふると首を振る。 「僕は、まだ満たされていないぞ」 白い脚を開く。珊瑚色の陰嚢の下に薔薇色の蕾がしどけなく綻んでいた。セシリオの手を取りそこに導く。香油と体液で濡れそぼって、ひくりとセシリオの指先に吸いついてくる。 「僕を慰めろと、言ったはずだ」 まだ息を整えている最中だというのに、もう不遜な態度が顔を出した。 「いけない子だ」 そう言いながらも、セシリオはフラヴィオに優しく口づける。 「まるで淫魔だ」 「軽蔑するか?」 「いいえ、それも貴方だということを識っていますから」 セシリオは金と緑を柔らかくたわませる。 「愛していますよ、私の女神ミューズ」 そう言って、祝福を授けるようにフラヴィオに接吻を落とすのであった。

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