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第1話

 北国の春は遅い。桜は連休の頃に満開になる。  その去年の連休中に、僕の好きな人はいなくなった。突然のことだった。理由はわからない。僕に知る権利もない。  春がなごむを連れて行った。もう帰ってこない。  連休中の寮は閑散としている。薄暗い室内からちらりと窓に目を向けると、晴天とばかみたいに満開の桜があった。時折ひらり、と薄桃色の花弁が舞ったりしている。僕は無性に泣きたくなった。 「まどか先輩、何見てんの?」  僕のむき出しの鎖骨に顔をうずめていたハルが尋ねてきた。茶色がかったふわふわの髪が首すじにあたって、くすぐったい。ちゅっと音を立てて、鎖骨と鎖骨の間を吸われた。  僕はハルの部屋で、ベッドの上に押し倒されていた。つまり僕はハルとはそういう関係にある。けれどそこに恋愛感情はない。くしゃくしゃになったシーツの上に横たわって僕は吐き捨てる。 「はるなんてきらいだ」  それが僕の全部だ。僕は今でもなごむが好きだし、ハルはなごむの代替品でしかない。ハルの目がなごむと似ていたから。今、僕らがこういう関係にあるのは、その一点でしかない。 「……。知ってる」  ハルはちらりと僕の目線を追いかけてから、そう答えた。そこに感情は乗っていない。そういうときのハルの顔を僕は見たことがないから、どんな顔で言っているのか、僕は未だに知らない。  ちゅ、と今度は肉の薄い胸にキスを落とされた。もうハルとは一年近くこういう関係を続けているけれど、ハルがどういう思いで僕を抱いているのか、僕は知らない。  ハルの長い指が僕の乳首をやわやわと触ってくる。 「ふぁ……っ」  僕ののどから僕のものじゃないような声が上がる。爪先で擦られる。じわじわと気持ちよくなっていく。つんと勃った乳首を抓まれる。吸われる。舌先で押し込まれる。かと思うと、ちゅぅと吸われる。  そのたびに僕から「あっ」「ひゃぅ」「んぁっ」と声が上がる。なんだかそういうおもちゃみたいだ。  ハルの手がわき腹を撫でると、くすぐったくて僕は身を捩った。そういうときはハルは僕と一緒に笑ってくれる。「あは」と笑い合って、僕らは互いに服を脱がし合う。僕の手がハルのカッターシャツのボタンにかかると、ハルは大人しく僕のいいようにさせてくれる。僕がのろのろと全部のボタンを外している間、ハルは手持ち無沙汰らしい。僕の髪だとか額だとかにキスを落としたりしていた。そういうことをするから、ハルの服を脱がせるのは手間どる。でも僕はそれを許している。それでも、 「君とキスはしない」

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