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第2話

 キスはしない。  それは僕とハルの間の約束ごとのひとつだ。ハルも心得てるから、「うん。知ってる」と返してくる。ハルは僕の唇を避けて、キスを落としていく。僕も露わになったハルの肩に唇で触れた。  約束ごとのふたつめは、痕を残さないことだ。僕はハルのものではないし、ハルも僕のものではないから、キスの痕も爪の痕も歯型もいらない。なごむのものだったら欲しかったかもしれない。でも僕はなごむとこういうことを一度もしたことがなかった。そもそもなごむに僕の好意が伝わっていたかどうかもわからない。  なごむが好きだ。柔らかく笑う目元がいちばん好きだ。その目をずっと見ていたかったから、僕はなごむに明確な「好き」を伝えなかった。「好き」を伝えて「好き」が返ってくる保障はどこにもない。それなら伝えない「好き」があってもいいと思っていた。  その点ハルはなごむと似た笑い方をするくせに、僕に「好き」と言ってきた。決して僕を裏切らない代替品を、僕は手に入れた。  ハルのスラックスと下着も脱がせてしまう。緩やかに勃ち上がったペニスが露出した。 「舐める?」  僕が尋ねると、ハルは嬉しそうに「うん」と返してきた。  僕は膝立ちのハルのへそにキスをしてから、股間に顔をうずめた。片手で支えながら、ハルのペニスの先端にキスをする。亀頭に舌を這わせて、丁寧に舐めてあげる。この一年で僕はフェラチオが上手くなったと思う。歯をたてずにハルのペニスを口に含んでいく。  ハルは僕の髪を撫でていた。たまに「は……ぁ」と熱い溜め息を吐くから、多分下手ではないはずだ。段々とかたさと質量を増していくのが楽しかった。舌先で裏筋をなぞっていく。 「んん……っ」  頭上でぐぐもった声がする。 「はりゅ、こえ、すきらね」  わざと咥えたまま、僕はハルを見上げた。ハルと目が合う。ハルは真赤な顔をしていた。 「まどか、せんぱ……っ」  咥えたまま喋るな、ということらしい。好きなくせに、わからない。でも深追いはしない。今度はちゅぅと先端を吸ってあげる。それに応えるように先走りがとろりと零れてきた。僕はそれを舐めとる。そうするとさらに零れてきた。 「先輩、も、いいから」  そう言われて、僕はハルから顔を離した。唇とハルのペニスの間に、僕の唾液かハルの先走りか、両方の混ざったものかよくわからないものが、糸を引いた。その糸はあっけなくハルの手で拭われる。  僕の唇をかたちのいい親指で撫でたハルは、今度はくしゃくしゃのシーツに僕を寝かせて挿入の準備をはじめる。

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