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十六夜の月に濡れて⑦
一体……一体、「ものにする」とは、どういう意味だろうか……
などという疑問の余地は欠片ほどもない。
なぜか。
宮様がそのままゆっくりと目を閉じ、「煮る? 焼く? どっちがいい?」的な態勢になってしまったからだ。
というか、「ものにしてもよいぞ」とか、「お前のものにしなきゃ切れるよ?」的に言ってるに違いない――
それにしても、さっきの感覚は何だったのだろう。宮様の瞳を見た瞬間、まるで理性がファーラウェイしてしまったかのようだった。
俺、そういう趣味があったんだろうか……
確かに、確かに、宮様は美しい。『イケメン』じゃなく、『美しい』なのだ。男装の麗人ならぬ、『女装の華人』というべきか。
しかし……しかしだ。男とわかっていて、それでもなお、俺からキスをしてしまうとは。ルースのように「された」のではない。「した」のだ。
もはや自分の感覚が信じられない。このままでは……このままでは、一線を越えてしまうかもしれない……ありえない、そんなこと。
幸い、宮様は今、目を閉じている――そっと体を離そうとしたが、しかし、宮様の腕に首をがっしりと抱えられていて、それができない。
まずい。本当にまずい。どうするべきか。
ここで、どこぞの神様が助けに来て――くれるような気配は全くない。召喚獣呼ばわりした報いなのか……
どうしようか。そう思った瞬間、宮様が目を開けた。俺を見つめる、サファイアの瞳。そのなかでいまだ踊る『渇望』を見て、俺はまた胸が、いや、魂が締め付けられる思いがした。
彼をそっと抱き寄せる。俺の首に絡めていた彼の腕に少し力が入った。
俺はいったい何をしてるんだ……
理性はそう叫んでいる。しかし本能が、いや、さらにその奥にいる魂が、理性を飲み込んでしまう。
俺はゆっくりと彼の体を横たえると、そのまま、着物――十二単の襟元に手を添えた。肉のついていない胸。鎖骨が、俺の指に当たった。
すっと、彼が息を飲む。そのまま吐いた吐息は、細かく震えているようだ。彼が、恥ずかしそうに顔を背けた。
と、また、理性が戻ってくる。しかし状況はさらに深刻だ。少し緩んだ胸元は、もう少し手を動かせば、彼の胸の先に届いてしまうだろう。
手のひらには、彼の鼓動が伝わっている。それは大きく、そして明らかに速くなっている。それがとても愛おしく感じられ、また自分で驚いてしまう。
月の光の下で見る彼の横顔は、少し長い睫毛が妙に色っぽく見えた。北欧系の顔なのだろうか。それが黒い髪との違和感を生み出し、神秘さをさらに加速させている。
戻ってきたはずの理性までもが、その美しさに屈してしまったようだ。俺は手を、さらに彼の着物の中へと忍ばせる。
――美しいのなら、それを抱いて何が悪い?
心の奥底から、そんな声が聞こえた。
ゆっくりと、着物をずらしていく。指が、胸の先の蕾に触れた瞬間、宮様が小さな声を上げた。少し高めの、しかしハスキーな声。宮様が、自分の指を口へと当てた。
声を出すのが恥ずかしいのか、それとも、自分の声を相手に聞かせたくないのか……
その仕草が、とても可愛らしい。
さらに着物をずらしていくが、彼は俺の動作にその身を任せていた。露わになった彼の肩が、月の光に照らされて白く輝いている。その肌に歯を立てると、彼はまた一つ大きな息をついた。
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