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世界の終わり
世界が終わった。
それについてオレは言葉にすることが出来ない。
口にしようとすれば言葉が奪われる。
話すことが出来ないのだ。
終わりの中にオレはいて、確かにこれが世界の終わりだと実感して、1人でいたのに、沢山の人間の絶望を自分のもののように感じたのに。
最後のそこであったことや、見たことを口に出来ない。
ただオレは1人で死んだ。
たった1人で。
死ぬ瞬間思ったことは覚えている。
なんでオレはお前の手を放したんだろうってことだった。
こうなると分かっていたなら、絶対にその手を離さななかった。
世界が終わり、お前も死んで終わるなら、お前の未来なんか無かったんだから。
じゃあ、オレと居たって良かったんじゃないか。
そう思った。
終わりを見つめながらオレはおもった。
死にたくないとかではなく、ただただ。
未来がないということを知っていたなら。
どんなに良かっただろうと。
死の恐怖よりも後悔があった。
柔らかな茶色の目。
穏やかな声。
オレをほしがる荒い息。
普段は優しいのに、行為の時には少し乱暴で、貪欲なアイツ。
「誰にも渡さない・・・僕のだ・・あんたは僕の・・・」
そう囁かれ続ける声。
許してと言っても許してくれない激しさ。
オレの恋人。
たった1人の。
オレは終わりを見詰めながら、恋人のことしか考えなかった。
別れてから1度だって考えなかったことはなかったけれど。
誰を抱いても抱かれても。
アイツに抱かれた時のことを考えていた。
終わりに向かってオレは泣いた。
なんでこうなると知らせてくれなかったのかと。
終わるとわかってさえいたら・・・
絶対に別れなかったのに。
未来がないことに歓喜しただろうに。
「 」
オレはアイツの名前を呼んだ。
声にしたのは久しぶりだった。
声にしたら耐えられなくなるから。
でも足りなかった。
たりなくてたりなくてたりなくて。
オレは死ぬことより、足りないことに絶望して、終わりに包まれた
そして死んだのだった。
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