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第3話-4

10分程度しか居なかった海岸。 肌寒さに身震いをする袮音に、それを見過ごすはずが無い奏は自分が羽織っていた薄手のジャケットをフワリと後ろから肩に掛けてやると、「あっ」と口には出さなかったが表情で分かった。 「少し寒いか?」 「はい…海に行くとは言ってなかったので、軽装で来ちゃって」 「いや、それはお前が謝ることではない。今ドアを開けるから直ぐに乗れ」 ぶっきらぼうな言い方だが、優しさが含まれているのに袮音は微笑んだ。 きっと、こういう言い回ししか出来ないんだろう…昔からそう思っていたからこそ、このちょっとした気遣いが身に沁みる。 ドアを開けて貰うと、綺麗な車を汚してはダメだと思い、もう一度乗る前に服に付着しているであろう砂を軽く(はた)いて車内へと入った。 先程借りたジャケットを返そうと手を掛けた途端、急に体が熱くなったのを感じると、自分で自分を抱き締めるようにギュッと助手席で縮こまる。 ジャケットから微かに香る奏の匂いに、Ωの本能が目を覚ます。 もう、発情期は終わったはずなのに… どうして―――― ハァハァと浅い呼吸を繰り返して、運転席の方を見ると奏は頭を抱える。 「お前…この狭い空間で発情するのはやめろ。もう終わったはずなんじゃないのか?」 「わ、からなっ…匂い…した、ら…」 香水とαのフェロモンが混じって、Ωには相当キツい香りなのだと言うことを体現した。 海岸に居た時は、風で匂いが分散されて分からなかったが、狭い空間ではすぐに気付く。 どうしたら良いのか。なんて、考えている余裕すらない袮音は縋るように奏の左腕を掴む。 辛そうな状態の相手を放っておく訳にもいかないが、だからと言ってこのまま車内行為に持ち込むか…少し考えようとしたら、袮音が自ら服を脱ぎ出す。 これは面白いと口角を上げてフッと笑った奏は、座席を倒し袮音を自分の上に乗せた。 「どうして欲しい?お前が言ったこと、全て実行してやる」 余裕な表情と、真っ直ぐ見つめる真紅の瞳に吸い込まれるように唇にキスをする。 遠慮がちなキスを何回かチュ、チュっとしたら、奏は顔を背けた。 「ぁっ…」 キスは嫌いなのかと勘違いした袮音は、下を向いて謝る。 「キスより…もっとイイことの方が良いだろ?」 耳元で囁くと、顔を細い首筋に冷たい唇を落としていくとピクっと反応を示すと共に、聞こえるくらいの甘い声を漏らした。 それが合図だと分かった奏は、そこを執着するように袮音の首だけを愛撫する。 唇が、首筋を触れるか触れないかくらいのギリギリの所で弄でいると、(くすぐ)ったいのかモゾモゾと足を擦り合わせる。 「どうした?これでは不満か?」 「だって、奏様…ズルい…」 顔を背ける仕草は、相手を煽るだけだと袮音本人は気付いていない。

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