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第37話
勇者とガイルとユリアスとリアの四人は、同じ孤児院で育った。歳が近いということで特別仲が良く、常に四人で一緒に居た。自由奔放な勇者と、活発なガイル、落ち着いているユリアスが保護者代わりで、リアは常に寝ているかぐったりとしてやる気がなかった。
そんなバラバラな四人だからこそ、仲良くあれたのかもしれない。
やがて大人になると、リアは「働きたくない! 外に出たくない!」と泣きながら叫んで、どこかに消えた。孤児院を出たあとのことだ。勇者はその頃からリアにもピンを立てていたから居場所は分かっていたし、特に焦ることもなかった。落ち着いたら会いに行こうと、そう思った程度である。
残された三人はなんと、それぞれ才能が素晴らしいとして勇者の一行とされた。
勇者は天才だった。見たこともない魔法陣を複数操って、その才能を知らしめた。
ガイルも天才だった。彼はどんな相手にも勝てるほどの剣さばきで、武の才能を見せつけた。
ユリアスも天才だった。彼は、人間の中では王族しか使えないはずの魔法を使って傷ついた者を癒し、魔法の才能を周知してみせた。
三人はともに鍛錬を続けた。魔王を倒すことを目標に、もう長く三人で頑張っていた。
そこに恋愛感情が混ざったのは、いったいいつ頃だったのか。
勇者はいつからかガイルを見ていた。ガイルへの憧れが恋へ変わった、というのが正しいのかもしれない。それでも勇者は三人一緒が楽しくて、ガイルへの気持ちは墓場まで持っていこうと隠していた。
そんな勇者だからこそ、さらなる変化に素早く気付いた。
ユリアスも同じようにガイルを見ていた。彼はとても分かりやすい。それこそ勇者よりも顔に出る。ガイルが気付かなかったのは、ガイルが鈍感だったからだ。普段からやる気もなく周囲を見ないリアでさえ、ユリアスの気持ちには気付いていた。
――ある意味、危うい天秤だったのだ。
ガイルは何も気付かないままで暮らしていたが、勇者とユリアスはいつも気まずい気持ちだった。
このバランスがいつ崩れるのか。勇者もユリアスも口にはしなかったが、内心ではハラハラを持て余していた。
そんなある日のことだ。
一番最初に魔王討伐に出向く、前日の夜のことである。
勇者はその日、なぜか深夜に目が覚めた。やけにすっきりとした目覚めだった。どうせならトイレにでも行こうと部屋を出て、ユリアスの部屋の前で足を止める。
中から、ユリアスのあられもない声と、乾いた音が聞こえてきたからである。
「んっ、ああ、もっと、奥……」
聞いたこともないような声だった。だから勇者は気になって、ほんの少しだけ、静かに扉を開いてしまった。
「ここか?」
「ひぅっ! あ、あ、そこ、」
ユリアスが足を開いて、その間にガイルが座っていた。
リズムよく腰を振っている。そんなガイルに脚を巻きつけて、ユリアスは強請るように手を伸ばす。ガイルが体を倒すと、二人の唇が重なった。
抱きしめ合って、二人の間に距離はない。互いを貪ることに必死なのか、二人が勇者に気付くことはなかった。
勇者はすぐに部屋に戻った。もちろん、扉はしっかりと閉めてからである。あんなにも生々しいところを見てしまって、居ても立ってもいられなかった。
(ふ、二人は、そういう……)
勇者はいっそ泣いてしまいたかった。失恋をするにしても、あんな場面は見たくなかった。
いったいいつから、と思えば、ますます惨めな気持ちになる。自分ばかりが何も知らず、愚かにもガイルに恋をしていたのだ。
だから勇者は、魔王の元に頻繁に訪れた。
彼が負けず嫌いなのは本当ではあるけれど、その裏側には、二人と一緒に居たくなかったからという本音もある。魔王に挑んでいるときは、素直に楽しい気持ちでいられた。それは魔王が、なんだかんだと言いながらも勇者を相手にするからかもしれない。
魔王は優しい。どんなに勇者が無茶をしても、迷惑をかけても、絶対に勇者を殺すことはない。怪我をさせることも、嫌な言葉を吐くこともない。
魔王にとっては簡単であるはずのことなのにそれを選ばないから、勇者はずっと魔王に甘えてしまっていた。
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