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<1>雄っぱい編
「トモくんて明るいし元気だし、一緒にいて楽しいんだけど……自分勝手なんだよね。疲れちゃった。ごめんなさい」
…………
………
「またおんなじこと言われて振られた……」
人生何度目かの振られ文句を言われた悲しい帰り道。今日は同期のリョウといつも通り営業に行って、直帰して彼女との待ち合わせ場所に向かった。わくわくしながら待ってたのに、来るなり別れ話を切り出された……。
「はあ……」
うちに帰っても彼女の私物があるし、ますます悲しい気分に追い打ちをかけられそうだ。
主任には直帰しますって連絡を入れたけど、作らなきゃいけない資料、雑務なんて常に山ほどある。会社に戻って時間潰そうかな。コーヒータダだし……。とにかく何かをして、「フラれた」という現実から目を逸らしたかった。
営業課のフロアへ行くと、他の部署はもう暗いのに明かりがついていた。そっと中の様子を伺うと、主任がまだ残っているようだった。
「ん……?」
何か様子がおかしい 。残ってるからにはパソコンをカタカタしてないとおかしいんだけど……下を向いて、何やら一生懸命ピコピコやっている。
あれは……。
PSP……? だよな……?
そっとドアを開けて部屋に入る。主任は横を向いてるし、イヤホンをしてるから俺には気づかない。そーっと背後から画面を見ると……
「あーっ!」
「うわあああっ」
俺のでかい声に驚いて、飛び上がって振り返る。
「それ、クリハンの3rdですよね。なんで持ってるんですか!? どこ探しても売り切れだったのに……」
クリハンとは、クリーチャーハンターの略である。先週3rdが出たが、シリーズ新作の発売日はいつも長蛇の列で、入手困難なのだ。主任は目をまん丸にして、イヤホンを外しながら俺をまじまじと見た。
「お前……なんでいんの。帰ったんじゃなかったの?」
「う……」
俺が振られたのはもう過去のこと! 悲しい恋はすっぱり忘れて前に進まなきゃ……。それより今は目の前にあるクリハンの方が大事なわけで……。
「そ、それはいいじゃないですか。それより主任、ゲーム好きなんすか? クリハンどうやってゲットしたんです!?」
目の前の上司は、いかにも「まずいとこを見られた」って感じの渋い顔をした。あ、すげえ。ちゃんとクリハン持ちだ。
「……並んだ。朝から」
「発売日に? あれ? でも普通に会社来てましたよね?」
「昼からな」
そう言われれば発売日の金曜日は朝礼にいなかった気がする。半休取ってたのかあ。……半休?
「ってことは、クリハンのためだけに休み取ったってことですか!?」
「うっせーなあ、わりぃかよ!」
なんだかすごく嬉しくなってテンションが上がってきた。いつもは仕事に厳しくて、ゲームとか漫画とか下に見てそうな主任が、朝から並ぶほど俺が好きなゲーム……クリハンを好きだったなんて!
椅子にドカッと腰を下ろして、主任の手元を覗きこんだ。
「え、今レベルどれくらいなんすか……え、わ、もう41!? だってこれ…三日前に発売されたばっかりでしょ!? どんだけやってるんすか」
「土日、ずっと協力でやってたから」
「すげえなあ……2ndもかなりやってました?」
「五百時間くらいかな。お前は?」
「え、俺なんて二百とかですよ」
それから俺は後ろにくっついて、一緒に画面を追った。前作と違う要素が所々にあって、見てるだけでワクワクしてくる。わかんないとこを質問するとすぐに答えてくれて、武器とかのアドバイスもしてくれた。
沈黙なんて全くなかった。ふと時計を見ると、なかなかいい時間になっていて……
「主任、もう十一時半ですよ」
「えっ!?」
ものすごい早さで振り返った。
「馬鹿お前っ、なんでもっと早く言わないんだよ」
俺がそう言うと、急いでセーブ画面を開いてセーブし始めた。慌ててコートを羽織って、PSPと充電器を鞄にしまった途端、ガチャリと扉が開いて守衛のおじさんが入ってきた。
「あれ、まだ残っていらしたんですか」
「すんません、もう出ますんで」
そう言って頭を下げる上司の後について俺も外に出た。もっと話をしていたかったのに、残念だなあ……と思いながら……。
「お前、腹減ってない?」
エントランスを出るなり、そう聞かれた。
「えっ、俺ですか?」
「俺が腹減ったから。ついでにどうかなと思ったけど……いいならいい。じゃーな」
「行きます行きますっ! 俺、ラーメン食いたいです!」
主任がさっさと歩いて行っちゃいそうだったので、慌てて後を追いかけた。
会社の近くにあるラーメン屋に入って食券を買う。先に主任が買ったんだけど、一回ボタンを押したと思ったら、千円札を追加してトッピングやら大盛やらをどんどん買っていく。部長とか次長みたいなメタボ体型とは違ってスラッとしてるのに、そんなに食べるのが意外で驚いた。
「主任、そんなに食うんですか?」
「あ? まあ……お前は? 何食うの」
俺が財布を取り出して買おうとしても、その場から動かない。
「あ、いいんですか?」
「いいよ」
奢ってくれるみたいだ。俺が何も言わなくても、大盛の券も一緒に買ってくれた。カウンターしか空いてなかったので、並んで座る。
「お前、なんで会社戻ってきたの」
「主任こそ、なんで会社でクリハンしてたんすか」
一番気になってたことを聞くと、「質問してんのは俺だろ」って感じのむっとした表情になった。
「別に……暖房効いてて暖かいしさ。充電タダだし」
「ケチくさいなあ」
心の中で呟いたつもりだったのに、つい声に出てしまった。やばい、怒られる! と思ったのに、主任は全く気にしてない様子で淡々としながら言う。
「違うんだよ。ウチの奴ら、みんな残業しないでさっさと帰るだろ。ひとりになると漫喫にいるみたいな感じがして、楽しくなってきちゃうんだよ」
「はあ……」
ひとりになると楽しくなってくるって、寂しい人だなあ。いや、面白い人なのか?
うちの会社は営業一課、二課、三課まであるので、各部屋の机は小さめのが十個しかない。こぢんまりしてるっちゃしてるので、なんとなくわかる気もした。
「主任、結婚してませんでしたっけ?」
「してないよ」
結構女の子にモテそうなのに意外だった。でも前に休憩室で女子トークを盗み聞きした感じでは、主任はサバサバしすぎとか、冷めすぎとか言われていたような気がする。
「で、十一時過ぎると守衛さんが巡回にくるわけ。今日は遅くてよかったけどな」
そうだったんですか、と相槌を打ってるうちにラーメンが運ばれてきた。主任のにはなんだかいろいろ乗ってるし、チャーシュー丼みたいなご飯まである。
「ほんとにそんな食えるんですか?」
「食えるよ」
主任がズルズルと啜りだしたので、俺も箸をつける。半分ほど食べ終えたところで、「こっちはあんまうまくないけど、このメシはうまい」とぽつりと言い出した。
「へえ、この肉丼みたいのうまいですか?」
「うん。やるよ」
そう言って、半分ほど残ったご飯をくれた。
「…ん! うまいこの肉! タレが美味しいなあ」
「な」
そう言ってこっちを見向きもせずに、「あんまうまくない」ラーメンをすする主任。その姿がなんだか小動物みたいで可愛くて、自然に笑みが零れた。
「俺もクリハン買えたら、一緒にやりましょうよ」
食べながら話しかける。主任は「ああ……うん」とか曖昧な返事をしながらスープをれんげですくった。
「俺の友達は斧が最強だっていうんですけど、俺にはいまいち良さがわかんないんですよね。動きが遅くてイライラするし。2ndでは普通の剣使ってたんですけど、やっぱみんなとは違う、マニアックな武器を使いこなしたいんですよ!」
「斧はなあ……あいついるだろ、四面のボス。あいつ体重軽いしすばしっこくて斧なんか当たんないけど、一定時間走らせとけば一瞬動き止まるから、そこ叩けばすぐ死ぬぞ」
「えっ、そうなんですか!? いっつも攻撃するたんびに凶暴化するから、ごり押しでなんとかしてましたよ」
「まあ武器はこだわんないで使い分けるのが一番いいと思うけど」
完食してからも、クリハンとかゲームのこととかずっと話してた。店の人の早く帰れオーラには俺も主任も気付いてたけど、それでも楽しい時間を終わらせたくなくて、ギリギリまで粘ってた。
今日別れた彼女のことはすっかり頭の中から消えていた。彼女と付き合ってた期間は短かったけど、今日初めて……仕事以外のことでまともに話した主任と一緒にいるほうが、ずっと楽しい。付き合ってた時、こんなに心から楽しいと思える時間はなかったなあ……。そう思った。
あれから三日後。
会社の帰りに、今日こそは入荷しててくれっ! と願掛けしながら駅前の電気屋を覗いたら……ついにあった! クリハン3rd!
「やったあああ!」
その日は徹夜でやりこんで、次の日、朝一で主任のデスクへ向かった。
「主任、おはようございます」
「……おはよ」
いつもはデスクまで出向いて挨拶なんかしないから、訝しんだ目で見られる。
「昨日、やっと買えたんです! あとで一緒にやりましょうよ」
声を潜めて他に聞こえないように言ったのに、軽く机をバンっと叩かれた。
「仕事中」
それだけ言うと、視線を手元の書類に戻した。そうだ、主任はプライベートと仕事の区別には厳しいんだった。俺は馬鹿だからいっつも学習しなくて怒られる。今日は浮かれすぎてて忘れてた……。怒られ慣れてる俺は、
「あっハイ。すみません」
それだけ言ってそそくさと自分のデスクに戻った。またあとで出直そう。
「お前、なんで主任に挨拶してんの」
席に着くと、隣の席のリョウが話しかけてきた。
「いや、ちょっと話があったんだけど怒られた。仕事中にすんなって」
「ふーん……にしてもお前、酷い顔だな。目真っ赤だぞ」
言われてるそばから、アゴが外れそうなほどの大あくびが出る。
「昨日、やっとクリハン買えたんだよ。朝までやってたからさあ」
「あー、あの流行ってるゲームか。ほどほどにしろよ」
ぽんぽんと肩を叩いて、リョウはホチキスでまとめた紙の束を持って部屋を出ていった。リョウもやればいいのにな、クリハン。そしたらみんなで狩りできて楽しいのに……。
午後になり、俺はパソコンで仕事をするふりをしながら、目当ての人が席を立つのを待った。
ガタッと音がして主任が廊下へ出て行く。後を追いかけると、ちょうど自販機で買ったコーヒーを飲んでるところだった。
「主任っ」
緩慢な仕草で振り返る。ちらっと見えたコーヒーは微糖だった。
「今日も残ります? 一緒にやりましょうよ、クリハン」
「いいよ」
仕事中だけど、周りに誰もいないからか、怒られなかった。また一緒に話ができる。嬉しくて心の中でガッツポーズをしていると、「買えたの?」と聞かれた。
「はい、昨日適当に回ってたら入荷してました。やっとですよ! 友達もみんな買ってて話題についていけないし」
「よかったな。少しやった?」
「朝までやってました。今日寝てないです」
そう言うと、主任はラーメンを「あんまりおいしくない」と言った時と同じ渋い顔をした。それがおかしくて少し笑う。
「大丈夫なの?」
「はい、もう全然! じゃ、俺、今日最後まで残ってますから」
踵を返すと、「無理すんなよ」って声が聞こえた。社交辞令でも、気遣ってくれたのが嬉しかった。
基本的に残業がないうちの会社は、七時を過ぎると残ってるのは俺と主任だけになった。
「…………」
「…………」
最後の一人が帰ると、どちらともなく目が合う。
「よし、やるか!」
「はいっ、やりましょう!」
やってることは決していいことじゃないのに、体育会系のノリで盛り上がってるのがおかしかった。
「二面のボス倒そう」
「えっ、俺まだ一面クリアしたばっかりですよ。絶対負けますよ」
「二人でやれば大丈夫だよ。お前のレベルも一気に上がるだろ。武器は槍にしろ」
主任の言うままに動いて攻撃していると、難なく勝てた。調子に乗って協力プレイでどんどん強い敵を倒していき、最終的に粘りに粘って五面のボスまで倒した。
「くあーっ! や、やっと死んだ……俺、手汗やばいっすよ。固すぎだろこいつ」
「はー、疲れたな……おっ」
「あっ、これって……」
倒したクリーチャーからアイテムが出てくる。千分の一……ってくらいの低確率な、レアなアイテムだった。
「うわっ、すげえ! 象の牙だ!」
「まじかよ、俺もまだ持ってなかった」
どちらからともなく顔を見合わせて、ニッと笑い合う。
「やりましたね、主任!」
「よかったなあ、序盤にこれ手に入るとラクだぞー」
主任が笑ったとこ、初めてちゃんと見た。笑うと年齢よりも幼く見えて……可愛いなと思った。
それから仕事が終わってからの数時間、主任とクリハンするのが日課になった。たまに帰りに飯食いに行ったり。俺はそれだけが楽しみで楽しみで、毎日会社に行ってるようなもんだった。
「すみません、今日は回線の点検があるので、社員のみなさんには八時までにはお帰りいただいてます」
いつものように始めようと思ったら、俺達があんまり熱中してやってるもんだから気づかれて、でもそれ以来黙認してくれている優しい守衛さんに話しかけられた。
「あ、はい。すみません、すぐ出ます」
主任が身支度を整えて席を立つ。残念だなと思いながら、俺も守衛さんに会釈して外へ出た。
「……俺んち来るか?」
雪こそ降ってないけれど、風が強くて凍えるように寒い。マフラー持ってくればよかったな……と思いながら会社の外に出た瞬間、そう聞かれた。
「えっ? いいんですか?」
「こっから二駅あるけど」
「でも、俺はその辺のカフェでもいいですよ」
「……公共の場ではやりたくない」
俺はあんまりそういうの気にしないけど、他人に見られるのが嫌なのかもしれなかった。確かに大の大人が二人してゲームやってんのは恥ずかしいかも。
「わかりました。じゃあ、お邪魔してもいいですか?」
「うん」
カフェなんかより主任の部屋でやったほうが絶対楽しいに決まってる。わくわくしながら、駅までの道のりを歩いた。
「お邪魔します。わあ……綺麗ですね~広いし……」
ファミレスでご飯を食べてから来た主任の部屋は、広めのワンルームだった。一人で暮らすにはちょっと広すぎる気がする……部屋の中はすっきりと片付いていた。
「悪い、先風呂入ってもいい?」
と言いながら、玄関のすぐ横の曇りガラスを開けた。ジャーッとお湯を溜める音が聞こえてくる。
「俺、帰ったら先に風呂なのよ。寒い」
ピ、とエアコンではなく、四角いヒーターと加湿器のスイッチを入れる。へえ、主任は「お風呂にする? ご飯にする? それともワタシ?」は、お風呂派かあ。と将来何の役にも立たないであろうことをぼんやりと考えた。
「適当にしてていいから」
「あ、はい」
主任がバスルームへ消えて、改めて辺りをぐるりと見回す。大きめの本棚があって、マニアックな青年漫画が棚いっぱいに並んでいた。グロいのと暗いのが多い。俺が知ってる作品も多くて嬉しくなる。部屋の隅にはバイクと車のカタログが積まれていて……主任って多趣味なのかな。
ガチャ、と音がして振り向くと、タオルをひっかけた半裸のイケメンが出てきた。
「うわ……しゅ、……」
俺はその上半身に釘付けになる。腹筋は綺麗に六つに割れていて、胸のあたりの筋肉もしっかりついている。なのに肩幅は言うほど広くなくて……女の子が毛嫌いするようなマッチョじゃなく、やっぱりすらっとした印象を受ける。いつも見ていたスーツの下にこんな身体が隠れていたのかと驚いた。
「すげ…何かスポーツやってたんですか?」
「陸上」
「へえ……ちょっと触ってもいいですか?」
男の俺でも惚れ惚れするような締まった身体だった。俺も腹は出てないし、まあ細マッチョの部類だろうと自分で思っていたけど、こんなにバランスのいい身体を見せつけられたら完璧に自信をなくす。
「触ってもいいかって、変な奴だな。いいよ」
主任はあの子供っぽい顔で笑った。もちろん腹はめっちゃ固くってボコボコしてる。無駄な肉がない……。
「あんなに食べるのに。どうしてですか」
「体質だろ。昔からだよ。十年後が怖いけどな」
そう言いながら芸術みたいな肉体の持ち主は服を着た。俺があんな身体になれたら、脱ぎまくって友達に自慢しまくるのにな……。かっこいい。
「あ、主任、ウシシマくんの二十巻、もう出てますよ」
「えっ、そうなの」
さっき本棚を見て思ったことを言ってみた。主任は「どこで終わってたっけ」と呟きながら十九巻をぱらぱらと捲りだす。俺も次の発売日までに話を忘れてよくやるから笑ってしまった。
「なんで知ってんの」
「俺、一昨日買いましたもん」
「ふーん」
俺はいそいそと鞄からPSPを取り出した。
「さーやりますか! 今日、フルで充電してきましたよ」
「んなの気にしなくていい。挿しながらやれよ」
何気ない言葉に嬉しくなる。お言葉に甘えて、コンセントに充電器を挿してから狩りを始めた。
そんな生活が一ヶ月続いた頃、食堂でリョウと昼飯を食ってる時だった。
「で、いつ三澄主任に告白すんのよ」
近くに座っていた女子社員の会話が聞こえてきた。三澄主任とは、俺と毎日クリハンやってるあの人のことである。
「ちょっとっ、声が大きいよっ」
そう言って周りを窘めたその子をちらっと見てみる。知らない顔だから、他の部署の子だ。背が小さくて、「綺麗」というよりは「可愛い」のほうが似合う女の子だった。
「あんな無愛想な人のどこがいいんだかわかんないけどさ。早くしないと誰かに取られちゃうよ」
「ぶ、無愛想なんかじゃないよ。告白……したいけど、私みたいな事務の子なんて……きっと相手にされないよ」
「何言ってんの。好きになるのに事務も営業も経理も関係ないでしょ」
……この子は主任の何を知っているんだろう。どこが好きなんだろう。クリハン大好きでウシシマくんが好きで、実はめちゃくちゃ大食いで、仕事中は厳しいけど笑うと子供みたいで可愛いってこと、知ってるんだろうか。
「ふーん。主任って結婚してなかったのか」
俺と同じように会話を聞いていたリョウがそう呟いた。
「うん……」
「モテそうなのにな。あの人、二十八とは思えないくらい落ち着いてるもんなあ」
もしあの子が告白して主任の裸を見るようなことがあったら、一発でノックアウトだろう。もし付き合い始めたら……あの部屋に入り浸る可能性もあるわけで……クリハンはどこでやるんだ? 会社がだめなときは……いや、その前に俺と一緒にいる時間がなくなるんじゃ……だって、デートとか……。
考えれば考えるほど焦って、頭がパンクしそうになる。
「リョウ……」
「ん? ……何お前、食わねーの」
「いや、食う。食うよ。食うけどさ……」
頭の中がぐるぐるしてなかなか先を切り出せない俺を、リョウがUMAでも見るような目で見つめる。
「あのさ、友達のもっと上……って、なんだと思う?」
自分でも何を言ってるのかわからない。けどリョウはこんな俺には慣れっこなのか、一瞬ぽかんとしてからすぐに答えをくれた。
「親友じゃないか?」
親友……親友とも違う気がする。だいたい親友は同じ立場のヤツのことを言うと思う。俺と主任は上司と部下の関係で……
「他には?」
「他って……うーん……」
女子の集団はまだ早く告れだのなんだのと騒いでいる。早くしないと……。
うどんをずるっと啜ったリョウが言う。
「好きなんじゃないの?」
好き……好き……?
そう言われてもイマイチぴんとこない。
「誰にも裸を見せたくない、ずっと一緒にいたい、俺以外に笑ってほしくない」
「好きだな」
断言される。確かに俺が逆の立場だったら、きっと「好き以外の何があるんだ」って言ってると思う。まだ半分以上残ってる俺の皿を見て、さっさと食い終えたリョウは席を立った。
「頑張れよ」
好き……俺、主任のこと好きなんだ……
そう自覚した途端、やたらと心臓がバクバクしてきた。この前見た風呂上がりの裸ばっかり浮かんでくる。
「っ……」
やばい、勃ちそう……
下半身を誤魔化すように、残っていた飯を掻き込んだ。
仕事が終わって、いつも通り二人っきりになった。腕を回して肩を揉みほぐしている主任に話しかける。
「あの……今日は主任の部屋に行きませんか? えと……理由は、特にないんですけど……」
「いいよ」
特に理由も聞かず、「いいよ」と言ってくれる。好きってことを自覚すると、こういう全てを受け入れてくれるっていうか……いい意味で適当なところも好きだなって思う。優しいのだ。
「何か食ってくか?」
「いや、どっかで買っていきません?」
どっちでもいいけど、と呟いた主任と一緒に、とりあえず駅前のスーパーに行くことにした。
もうすっかり慣れ親しんだ家。自分んちに帰ってきたみたいにほっとする自分がいた。
「瓶あるけど、飲むだろ」
真っ直ぐ冷蔵庫に向かった主任は、瓶ビールを二本取り出して持ってきた。「冷蔵庫入れとかなくてもよかったかぁ」とぶつぶつ言っている。今日も外は風が強くて寒かった。
自分で手酌して飲もうとしたから、「あ、お注ぎします」と条件反射みたいに言ってビールをひったくった。
「さんきゅー」
へらっと笑って一気に飲んだあと、「お前、そういうのやんなくていいよ」と言ってくれた。「会社の飲み会じゃねえんだから」と。……やっぱり優しい。こういうところが好きだ。心臓がバクバクして、止まらなくなる……。
「あの、主任」
「んー?」
「あの……ホモ……とかって、どう……思います?」
引かれるかと思ったら、意外にすぐ答えが返ってきた。
「別に。本人たちがよければいいんじゃねーの」
「……本当に?」
それを聞いて立ち上がった。
「主任」
「ん……」
「好きです」
ぎゅ、と手を取って、真っ直ぐに目を見つめながら言った。手が汗ばんでぬるぬるしてるのが自分でもわかる。
「ああ……うん」
今ホモがどーのって話をしたのに、全然相手にされてない。俺の本気が伝わってない。会社の先輩として、って意味でしか伝わってない。
「本気で好きなんですっ!」
そのままがばっと床に押し倒した。
「うわっ……」
「誰にも裸を見せたくないし、誰とも付き合って欲しくない。俺とずっと一緒にいてほしいんです」
そこまで言って初めて、目が揺れて見開かれた。
「あの……お願い、きいてもらってもいいですか」
Yシャツのボタンをぷちぷち外す。焦れったくなって、悪いとは思いつつ引き裂くみたいに引っ張って全部飛ばした。
「っ……!?」
一度だけ見た均整のとれた上半身が露わになる。鼻血を吹き出してしまいそうなくらい綺麗だった。
俺は呆然としている主任の両手を取って胸へあてがい、「だっちゅーの」とはちょっと違うけど……そんな感じにして、強制的に胸を寄せさせた。ズボンの前を開けて、綺麗な胸を見て秒で勃ったちんこを取り出す。「ひっ」と目を剥いて驚く表情に興奮した。
「なっ……! なにっ……」
「おっぱい両手で寄せて、俺の挟んでください」
主任の胸は筋肉で綺麗に盛り上がってて、めちゃくちゃエロい。女の子の胸のサイズのことはよくわからないけど、Aカップくらいあるんじゃないだろうか。寄せても固いせいで全然寄ってないけど、それが逆に燃えた。
「パイズリしてください」
「な……ひっ、ぁっ!」
ずり、と胸の谷間にモノを当てて滑らせた。
「わ……すべすべ……」
「ばっ……、っ……!」
寄ってないけど、俺の勃起したもので胸を触っている……という事実だけで興奮した。先走りがどんどん出てきて、主任の肌も汗ばんできて、滑りがよくなってくる。肌の吸いつく感じが気持ちよくて、ゆるゆると腰を動かした。
「うあ……ぁ、ぁ……っ」
調子に乗って顔に先っぽを当てないようにしながら、位置をずらして竿を乳首に擦り付けた。
「ひっ……」
「やべ……コリコリしてて、気持ち……」
最初はふにゃっとしてたけど、擦り付けていくうちに固くなってきた。反対側にも同じように擦り付ける。散々いじられたそこは、真っ赤に濡れて先がピンと尖っていた。
「乳首、気持ちいいですか?」
まるで弄って、ってお願いしてるみたいだ。こっちは指でいじめることにして、腰は止めずにそのまま動かす。
「……っんなわけねぇだろっ!」
「だって、こんなに勃ってるよ……」
きゅっと引っ張って先端に爪をたてると、主任の顔が真っ赤になって歪んだ。
「それは、お前が……っぁ、あっ!」
膝を立てて、真上から亀頭の部分でそこを押しつぶした。敏感な先端に固い乳首が擦れるのが、めちゃくちゃ気持ちいい……。
「はあ……たまんね……」
「なにして……っあ…っや、ぁ……っ」
腰を引くと、尿道からぷくっと出た液体が糸を引く。その様子が主任にはバッチリ見えてるはずだった。
「あ……ぁ……」
「ね……こうやってると、乳首が俺の尿道ん中に入っちゃいそうですよ……」
「っ……」
見せつけるように擦り付ける。それも気持ちよさそうだな、と一瞬思った自分が怖い。
「あ、も……いく……」
「ひっ……ぁ、待……っ」
最後にぐりっと強く押しつけて、綺麗な腹筋の上に放った。
「っ……!!」
主任の身体がびくっと跳ねて、腹筋がひくひく痙攣した。動きに合わせて濃い精液が、床にこぼれ落ちていく……。
「はあっ、はあっ、はあ……っ」
動いた俺の方が疲れてるはずなのに、主任のほうが息が荒い。それを見てたらまたムラムラしてきた。
「ごめんなさい……もう一回出してもいいですか?」
「も……やめろ……」
やめなきゃだめだと思うけど、ちんこは勃起してるし、主任はエロいし、どうしても擦りつけたいのを我慢できなかった。
「んぅっ……あ……!」
出したばっかりでまだ温かい精液を胸に塗りたくって、さっきと同じように滑らせた。ぬちゃっ、とエロい音がする。
「顔に……かけてもいいですか……?」
ダメもとでお願いしてみると、信じられないものを見るような目で見られた。ゴキブリ視点から見た人間ってこんな感じなんじゃないか? 傷つく……。いや、確かに変態的なことはしてるけど……。
「だめだ……絶対すんなっ……」
「どうして? じゃあ、どこならかけてもいい?」
「っ……」
さっきは乳首の刺激でいけたけど、今は主任の汗だくで眉間に皺を寄せてる、苦しそうな顔だけでいけそうだった。
「……腹っ……腹にかけろっ……」
「……はーい、わかりました」
残念だったけど、自分から「かけろ」って言ってくれたことにすごく興奮した。
「はあっ……すべすべしてて……すげえ気持ちいい……っ」
「んっ、ん゛っ……んぅっ……」
滑らすたびにぐちょっ、ぐちょ、と音がする。主任は真っ赤になった顔を片手で半分隠して、悔しそうに唇を噛んでいる。こんな顔もするんだ……たまんない……。このまま顔にかけたいよ……
「は、出る、出しますよ……っ」
「っぁ……あっ! っ……っ……!」
二回目とは思えないくらい、たくさん出た。すっきりして、幾分か冷静になる。上から見下ろすと、腹の上も下も白い水たまりみたいになっててすごい有り様だった。
「主任」
どろどろになってる可愛い人は、手で顔を隠して何も答えない。
「好きです」
何も言わない。
「俺のこと、好きになってください」
続けて、勝手にこんなことしてごめんなさい、やめろって言ったのにしてごめんなさい……と謝った。
「掃除しろ…」
ぽつりと掠れた声が聞こえた。「あ、はいっ」と返事をして、洗面所にあったタオルを持ってきてそっと拭う。タオルで触れたとき、「んっ」と鼻に抜ける声がしてまたドキドキした。綺麗にすると、むくりと上体が起き上がる。
目が合う。表情からは、主任が何を考えてるのか全く読み取れない。「風呂入る」と告げて、そのままバスルームに消えた。
時間が永遠に感じられるくらい長かった。体育座りをして丸くなっていると、扉が開く音がした。腕を組んで、壁に寄りかかってこっちを見下ろしている。……怖い。何を言われるか、わからないから怖い。
「うちの会社、社内恋愛禁止なんだよ」
「えっ、そうなんですか」
知らなかった。けど、色恋沙汰の話は毎日のように聞く。誰も守ってる人なんかいない。
「だから、好きとは言えない」
両思いになっちゃうから……ってことなんだろうか。
「けど……お前とは、一緒にいてやってもいい」
はっとして顔を上げた。俺は今きっと、泣きそうな顔をしてると思う。
「会社以外でも?」
「………」
「今までみたいに、一緒にいていいんですか?」
ちゃんと見てないとわからないくらい、小さく首を動かして頷いた。
「あー、あー……お前、とりあえず今日は帰れ」
「えっ、どうして? クリハンやんないんですか」
「この流れでできるわけねーだろ!」
仕事中に怒ってる時と同じテンションで追い出される。名残惜しくて振り返ると、
「……またな」
そう言ってバタンと扉が閉まった。聞こえるはずもないのに、
「はいっ!」
俺は無駄にでかい声で返事をした。
おわり
***
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