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<2>初めて編
『またな』
主任に告白して、変態行為を強いてから数時間後。
俺は帰りの電車の中で、帰り際の言葉ばかり思い出していた。またなってことは、また来てもいいってことで。俺の居場所があるってことで……! ニヤけそうになるのを必死に我慢する。それでも真っピンクになった脳みそは、あの感触を何度も反芻してしまう。
……本当に最高だったな。主任の胸。
リョウに好きだってことを気づかされて、自分でも自覚してからあのおっぱいに触りたくてたまらなかった。やっぱり妄想は本物には勝てない。さっき触ったばっかりなのに、二回も出したのに、また挟みたくてしょうがなかった。
俺って変態だったのかな。理性がきかなくなって、そのうちもっとやばいことをしちゃいそうで怖くなった……。
次の日、早く起きて主任に電話をかけようと思ってたのに、見事に寝過ごした。
「やべっ」
急いで電話する。前に主任の充電器を間違えて持って帰ってきちゃったことがあって、一緒にいる時間も増えたし、何かとすぐに連絡できたほうがいいってことで、携帯の番号は交換済みだ。
『もしもし』
「あっ、主任、おはようございますっ!」
『おはようって、もう二時だぞ』
「いやー、俺、今起きたんですよ。あの、今からそっち行ってもいいですか?」
『………』
「あれ? もしもーし?」
『……お前、ほんとになんも考えてないのな』
いや、考えてる。昨日の今日で俺に会うのはちょっと気まずいだろうなって、さすがに馬鹿な俺でもわかってる。
でも、「またな」って言ってくれた。そう言ってくれたから……一日でも早く、俺のことを好きになってほしい。好きにさせたい。他の奴に取られたくない。会いたい。
「……ダメですか?」
やっぱり今日はダメだろうか、明日ならいいんだろうか? と一秒の間に頭をフル回転させていると、
『いいよ』
欲しかった言葉が返ってきて、叫び出したくなるほど嬉しかった。
平日はいつもクリハンして一緒に過ごしてたけど、休日に会うのは初めてだ。
オートロックを開けてもらって、部屋の前でインターホンを押すと、ジーンズを履いたラフな格好の主任が出てきた。お風呂上がりのスウェット姿は見たことあるけど、私服を見るのは初めてだから……なんだか妙に新鮮だ。当然俺も私服なわけで、ちょっと照れくさい。
「おう」
「お邪魔します」
「腹減ってる?」
リビングに入るなりそう聞かれた。寝起きでそのまま家を出てきたから、正直かなり腹は減ってる。
「お腹すいてます」
「パスタしかないけどいい?」
「えっ!? 料理するんですか?」
「最近あんまりしてなかったけど……できるよ」
いっつもどっかで食ったりスーパーで買ったりしてたから、俺と同じで料理できないんだと思ってた。
「夕飯、作ったりしないんですか?」
「そんな暇があったらゲームしてたほうがマシだろ」
子供っぽい言い分に笑ってしまった。確かにその時ハマってるものがあると、時間が惜しくて食うのも作るのもめんどくさくなるんだよなあ。よくわかる。
「俺っ、ナポリタンがいいです!」
「無理。ペペロンチーノの材料しかないから」
がくっとうなだれた俺を、主任が面白そうに見ていた。会社の近くにも家の近くにもイタリアンはないから、パスタなんて久しく食べてない。どうにもお湯が沸くまで待ってるのが面倒くさくて、家では米派だ。ぺぺろんってどんなんだっけ? と考えているうちに出来たてが運ばれてくる。
「わ、すげー美味そう!」
キャベツとベーコン、温玉が乗っていて見た目も綺麗だった。おしゃれなカフェで出てきそうなビジュアルだ。急いで掻き込みすぎてゲホゲホやってたら主任が笑ったから、嬉しくなって俺も笑った。
「俺、本屋行ってくるけど」
最後の一口を食べていると、そう言いながら目の前で財布を持って立ち上がった。
「本屋?」
「ウシシマくんと進撃の小人買いに」
「ああ、俺も行きます」
進撃の小人の新刊、俺も読みたいし。前はすっげーいいとこで終わったんだよなあ。本屋に行って、ついでに近くの商店街を散策して……これってデートみたいだよな……帰ってきてから、いつものようにクリハンをやった。
「俺、昨日遅くまでやってたから眠いんだよなあ。目がショボショボするわ」
「えっ、どうして一人でやったんですか」
「肉の材料がどうしても欲しかったんだよ」
「二人でやったほうがレベルも上がるし、レア拾える確率高いですよ。やりたくなったら俺のこと呼んでください」
クリハンのことじゃなくたっていつでも飛んでくるけど。わりと本気で言ったのに、「はいはい」と流されたあと、「てか、眠れなかったから」と小声でぼそっと言ったのを聞き逃さなかった。
それは……その……昨日、俺が……エッチなこと、したからだよな……。まだ夕方五時前で、外も明るい。昨日のことを思い出すと今この場で秒で勃ちそうになるので、必死に頭から追い出してゲームに集中した。
五時間くらい、いろいろ話をしながら狩りをして、さすがに疲れてきたので休憩することにした。
「んー……」
主任は眠いのか目が痛いのか、目を閉じて指でぐりぐりマッサージしてる。
ふと外を見ると、もうすっかり陽も落ちて、部屋に二人っきり……。嫌でも昨日の出来事を思い出す。
俺はごくりと唾を飲み込んでから、好きな人の隣に移動して、そっと手を重ねた。
「キスしたい」
怪訝な顔で即答される。
「素面じゃ無理」
「じ……じゃあ!」
恥ずかしいけど、どうしてもしたかったから勇気を振り絞って言った。
「素面じゃなくなるようなこと、しましょうよ」
「……酒?」
「ちっ……違いますっ! り、理性が、なくなるようなこと……」
自分でも何言ってんのかわからない。主任は吹き出したかと思うとふっと目を逸らして、「風呂入れ」と蚊の鳴くような声で言った。
「あ、じゃあ一緒に入ります?」
がんっ!
言った瞬間、頭のてっぺんに鉄拳が降ってきた。これ、全然手加減とかない。痛い……。
「早く行け」
「はいぃ……俺が出てきたらいなくなってるとか、ぜってーなしですよ」
くどいくらいに釘をさしてからバスルームに向かった。
風呂に入ったのはいいけど、ここでいつも主任が髪洗って身体洗ってんだなと思ったら興奮してきた。パッケージのシールが剥げかけてるシャンプーのボトル。感じる生活感。ひとりで致しかねないので、ざっとシャワーだけ浴びて、でも下半身は念入りに洗って出た。
十分もかからなかったはずなのに、主任は空気を読まずにベッドに横になって寝息を立てていた。
「主任? 寝てるの……?」
ベッドに乗り上げると、ぎし、と軋む音に反応したのか目を開けた。
「ん……、あ……悪い……ちょっと寝た……」
「……うつ伏せになって」
まだ覚醒してない寝ぼけた目でじっと見られる。その眼差しからは何も感情が読み取れない。探り合うみたいに見つめ合う。しばらくしてから身体を動かして、俺の言うとおりに背中を向けてくれた。
「腰、もっとあげて」
お腹を下から軽く押して、腰を上げるよう促す。
「ちょ……おい……っ」
お尻だけこっちに突き出す、雌豹みたいなポーズになった。ベルトはしてなかったので、ボタンだけ外してジーンズを下着ごと脱がす。
「うわっ……」
「これから俺のすること、びっくりするかもしれないけど、心配しないで力抜いててください」
そう断ってから、後ろの穴を開いて舌を這わせた。
「ひっ……!?」
固く閉ざしてるそこを押し広げるように、舌をぐにぐに動かして中に侵入させる。
「な……あっ!」
時間はたっぷりかけるつもりだった。焦らず、ほぐすようにして中をつつく。
「あぅ! あ……う…うぅ……っ」
穴の縁をねぶると、身体がひくひくと痙攣してきた。しばらく舐め続けていると力が入らなくなったみたいで、自分の身体を支えていた腕ががくりと崩れ落ちた。その隙に、舌を根元まで突き入れる。
「ひあっ! っあ……」
中がすごく狭い。拡げるようにして乱暴に掻き回す。最後に襞をぐるりと舐めてから引き抜いて、舐めて濡らした指を入れた。
「うぅっ……はあ、はあっ……」
主任の息がすごく荒い。指一本だけでこんなになっちゃって、俺の、入れたらどうなっちゃうんだろ……。期待に、俺のものがズボンの中でずくっと主張した。
「あ、んっ……はあ、はっ……や…」
念入りに慣らしたせいで、主任のそこは指を四本くわえられるくらいに拡がっていた。あんな小さいところが、こんなに拡がっちゃうなんてすごい……。人体の神秘を感じた。股間をギンギンに張らせながら、両手の人差し指と中指、四本の指を使って濡れてる穴をがぱっと拡げた。
「っ!」
「っ、すげ……中、糸引いてる……エロい……」
「見んなっ!」
そのまま直接中の肉を撫でる。
「ぐにぐにしてる。熱いよ……」
「な…さわ、んなあ……あ…あ……」
腸壁をそのまま触られて、俺の下にいる身体が膝が小鹿みたいにガクガク震え出す。俺もいい加減我慢の限界で、服を全部脱ぎ捨てて全裸になった。パンツが先走りでびしょびしょになっている。
「主任、いれますよ……俺の……」
背中に覆い被さって囁くと、肩が大袈裟にびくっと震えた。
「いれちゃいますよ……?」
そう言うと、覚悟を決めたのか、身体が少し弛緩した……ように思う。
先端を潜り込ませると、
「んあ、あっ……!」
吸いつくように入り口が収縮して、中に吸い込まれていった。
「ふあぁっ……」
一番太い雁首が中に入る。興奮しすぎてどうにかなりそうだった。一気に根本まで突き入れたいのを我慢して、俺の大きさに馴染ませるように軽く抜き差しする。
「あ、それ……っ駄目、やめ……っ」
「入り口んとこ、気持ちいい?」
穴をこね回すようにしてぐりぐり拡げる。その感触が嫌らしく、後ろを振り返って抗議してきた。
「やめろ……て……っ、ひん……っ!」
空気を含んで、抜き差しするたびにぶちゅぶちゅ下品な音がする。
「あ、あ゛ーっ……!」
「奥までいれますよ……」
ぐぐっと体重をかけて、半分ほどナカに押し込んだ。
「はあっ、これが……主任のなか……熱い…」
「あぅ…ぐぅっ……」
全部一気にいれるつもりだったけど、苦しそうだったので一旦動きを止める。
「半分入りましたよ」
「っはあっ、は……ん…ぶん……?」
今ので全部入ったと思ったのか、半分振り返った顔が「信じられない」って言ってる。ショックだったみたいで、中がぎゅうぎゅう締め付けてきた。
「うん。まだ……っ奥まで、入るよ……」
「ひあっ、あああぁっ!」
強引に肉を掻き分けて中に入る。竿が見えなくなって、陰毛が形のいいお尻にくっついた。
「全部入ったよ……」
「あぐぅ……う……ぅっ」
「一番奥……ざらざらしてる。ぎゅうぎゅう締め付けてきて……気持ちいいよ……」
「ぅう…っ、はう……」
「ここに、俺の入ってるんだ…」
凹凸のあるお腹をすりすり撫で回す。この綺麗な身体を俺が征服してると思うとゾクゾクする。今も入ってるのに、熱い感触を感じるのに、なんだか夢みたいにふわふわしてる。
「や、めろ……」
俺の手の上に指を重ねて引き剥がそうとしてくる。逆にその手をとって、手の甲にちゅっとキスした。
「っ……」
耳の先まで真っ赤になる。
「かわいい」
しばらく中の感触を味わってから、ゆっくりと腰を引いていく……。
「待てっ……、あ゛、ああ゛ぁっ」
「すげ……中が捲れあがって……すげーエロい……」
腰を引くと中の肉も一緒に真っ赤に捲れあがってきて、見てるだけで射精してしまいそうだった。
「やめっ待っ……! ああぁっ」
「待てないよ……」
ギリギリまで引き抜いて、また根本まで入れる。動物が交尾してるみたいな姿勢で、ぺちぺちと肌がぶつかる音が部屋に響いた。
「あ、あ゛、っ! や……っ」
「は、もうだめだ……っ、出る、出すよ……」
「ばっ……どこに……っ!」
「中に出すよ……」
ぐっと細い腰を引き寄せて、
「い゛っ! ―――――っっ!?」
最奥のぎゅうぎゅう締めつけてくるところで思いっきり射精した。
「がっ…あ……あ…ぁ……っ」
中が射精するのに合わせて痙攣して、全部搾り出そうとするみたいに蠢く。女の子と全然違う、今までで一番気持ちいい射精だった……。抜くのが名残惜しい……。ゆるゆると尿道に残った分まで全部吐き出してから引き抜いた。
「はひ……」
可愛い人から間抜けな喘ぎ声が漏れる。仰向けにして、半開きの唇にキスした。
「んっ……」
上顎を擦って、互いの唾液を交換する。縮こまって出てこない舌をきつめに吸い上げた。
「んむ、んっ……ふぁ……っ」
何度も角度を変えて、貪るみたいに口付ける。獣みたいなキスをしてると興奮してきて、また勃起し始めたものを主任のに擦り付けた。初めて触れたそれはケツの刺激だけで勃ち上がって、ふるふる震えていた。
「む、はふ……っん」
鼻に抜けた声を聞いてると、すぐにまたエロい穴にハメたくなってきて、手探りで濡れた穴を拡げて挿入した。
「っ!? っ……!?」
今度は一気に根本まで入れた。びくびくっと面白いくらいに身体全体が痙攣して、驚いたのか軽く舌を咬まれた。ピリッとした痛みを感じて、一瞬動きが止まる。けど、猫にじゃれつかれたような痛みで、気にするほどでもない。改めて舌を絡ませようとすると、「ごめんね」って謝るみたいに……舌先で、噛んだところをちろちろ舐めてきた……。
その仕草にめちゃくちゃ興奮して、後頭部を掴んで口内を乱暴に犯した。
「ん゛っ!? んぶっ……ぁふっ」
片手で腰を掴んで、一番奥まで一気に貫く。
「ん゛んっ! んっ……ん゛ぅっ」
手を移動させて主任のものを扱くと、中がもっとぎゅっと締まる。すぐに限界がやってきて、ぬるぬるの穴の中で爆発した。
「っ――……!! っ、っ……」
手にも熱い液体がかかるのを感じる。出しながら精液を奥に送り込むように、腰を突き出す……
「ふわ……ぁ……」
顔を引くと、銀の唾液が長く繋がった。入れていたものを抜くとゴプッと音がして、精液が締まらなくなった穴から漏れる。
「主任……」
お互い酸欠で、息切れ状態だ。目の前の綺麗な顔には、生理的なものか、それとも、その……気持ちよすぎてか……うっすらと涙が溜まっている。汗だくの髪の毛を掻き上げながら囁いた。
「名前で呼んでもいい……?」
本当に失礼極まりないことだが、俺、今までちゃんと主任の下の名前、聞いたことなかった気がする……! もともとバカで人の名前があんまり覚えられないのもあるけど、仕事で下の名前が必要になることはあんまりないわけで……。社内メールでも、フルネームじゃなく苗字しか登録してないから、差出人には「三澄」としか表示されない。
主任は胸を上下させながら、焦点の合わない目でこっちを見た。けどすぐに逸らされて、それからぽつりと呟いた。
「……智樹」
「えっ?」
驚いて目の前の顔をまじまじと見つめる。
「俺と同じ? 漢字は?」
「………」
無言でコクリと頷く。
「……マジですか?」
信じられない。こんな偶然ってあるんだろうか。なんでそんなすごいことを周りは誰も教えてくれなかったんだ? いや、俺が忘れていただけかもしれないが……。これって運命じゃないか? 思わずニヤけそうになったから、手で口を隠してだらしない顔を見られないようにガードした。
「なんかすげえ……嬉しい。ずっと知ってたの?」
「……知ってた」
主任の声はガラガラに乾いていた。慌てて力が入らないであろう上体を起こして、ぎゅっと抱きしめた。
「言ってくれたらよかったのに」
「……、……」
「主任のこと、名前で呼びたいです。俺のことも好きに呼んでください」
「……お前、会社、で……」
吐息混じりの声で、耳元で囁かれる。
「ん?」
「しごと……ちゅ、に……呼ぶなよ……」
仕事とプライベートはきっちり分ける、らしい台詞だった。
「はい、わかりました。そこはちゃんと気をつけます」
こんな時にもそんなことを心配するのが可愛い。プライベートでだけ名前で呼び合う二人だけの秘密……逆に燃えるなと思った。
「無理、させちゃいましたよね。ごめんなさい……あの、でも俺、すごく気持ちよかったです。えと、さ、最高でした」
「……変なヤツ」
とろーんとした目で笑いかけられて、胸の奥がきゅーっとなった。
「お風呂、入りますか?」
問いかけると、ゆるゆると首を振った。
「じゃあ俺、タオル持ってきますから。このまま寝てください。全部綺麗にしますから」
水だと冷たいだろうから、ぬるま湯を用意することにした。キッチンのお湯をひねっても、外が寒いからかなかなか温かくならない。鍋でぬるま湯を作ることにして、タオルと着替えを取りに行く。
主任が「犬みたいだな」と呟いた声は、足音にまぎれて俺には届かなかった。
おわり
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