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十二、

「………そうか。 センの気持ちは、わかったよ」 寅松はそれ以上何も言わず 長い息を吐き切ると、音も鳴らさずに立ち上がった。 …それでいい。 いいんだ、早く俺を忘れて。 俺を嫌ったって、憎んだっていい。 許さなくていい。 頼むから涙が零れる前に 早く、行ってくれ。 ──だが そんな願いは、叶わず終いとなる。 「なに、ッ!!」 入口へ向いたと思われた寅松の足は 何の事はない。 くるりと向きを変えれば、あれよあれよという間に俺の身ぐるみを剥いだのだ。 考えもしない展開に慌てて身体を捩るが、 寅松の歪んだ口元を見た途端、釘を打ち込まれたように自身は言うことを聞かなくなった。 数え切れないほど触れ合い、確かめ合ったそこが 歯に潰され、変色し、苦しいと泣き叫んでいる。 寅松は腰紐を乱暴に引き抜くと まだ温もりを失わぬうちに俺の手首を括り上げた。 「い゛ぅッ……‼」 デタラメな巻き方と、容赦の無い締めつけ。 ……抵抗も、させてくれないか。 「……これまでだと、いうなら 好きにさせてもらう…千之助ッ」 「ぁぐッ!!」 いくら解れていようと 女とは違い、自ら濡れる事のない部位。 潤いの欠片も無い窄まりへ 寅松の欲を露わにした肉棒が、激痛を孕んで侵入する。 痛みと快感の合間に見る、昨夜の客とよく似た腰の動きは 今思えば、寅松自身が虜になった快楽を 俺の身体へ教え込んでいたという事だ。 …なんて、惨めなんだろう。 行き止まるまで一思いに貫かれ、 腹ははち切れそうに苦しい。 それなのに、凍てつくような心の奥で まだこの熱を感じていたいと 全身全霊で寅松を求める俺がいて。 「ぁあ゛っんむ────ッ」 果てる間際、寅松の尖った歯列が 俺の悲痛な叫びを飲み干す。 ──行為を終え、乱れた姿のまま部屋を出る寅松を 引き止める事すら許せぬ自身に嫌気がさした。 下腹部の痛みに襲われ、背を丸めてうずくまっていれば 静寂に囚われた室内に虫の歌が届く。 村にいた頃は、よく寅松と捕まえに行ったものだ。 同じであっても、個々で差のある声色に あれこれ文句を言ったり、詩をつけたり。 あぁ。 寅松……。 痛みを言い訳に、袖を噛んで泣き続けた。 最後の想い出は、優しく、時に強引に 俺を大きな愛で包み込むあの晩のままでよかった。 顔を顰め、こちらも見ずに 髪に隠れて鼻を啜るような、あんな寅松を見たかったのではない。 痛い。 身体ではなく 心が。 ……今にも張り裂けてしまいそうだ。

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