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第4話
「純一、お昼一緒に食べよー」
午前中のテストが終わった昼休み、純一は湊からお昼ご飯に誘われ、二つ返事で返した。
「もちろん。どこで食べようか?」
基本鍵が掛かっている教科棟以外は、どこでも食べていい事になっているが、教室で食べるのも面白くない。
「そうだなぁ……」
「んー……」と指を顎に当て、思案する湊は、やっぱり男から見てもイケメンだ。
「できれば静かな所が良いよね。あ、司!」
湊は廊下に司を見つけ、声をかける。
「司もお昼ご飯? 一緒に食べよ。静かな場所知らない?」
司は無言でやってくると、ボソリと教科棟と呟いた。
「教室と屋上には入れないが、それに続く階段なら割と静かだ」
純一は何故分かるのだろう? と不思議に思う。
答えは次の湊の言葉で分かった。
「流石読書好きだね。オッケーそこに行こう」
純一は驚く。司が読書好きだと、どこで分かったのだろう?
聞くと、「え? ずっと何かしらの本、持ってたじゃない」と返ってきて、自分の観察眼の無さに打ちのめされた。確かに今も、弁当と一緒にハードカバーの本を持っている。
三人でそこへ向かい始めたが、途中、純一は凄く注目されているな、と感じる。しかも女の子の視線だ。
(あ、みんな湊を見てるのか)
女子の黄色い声とか、一組の湊くんって言うんだってとか、全部本人に聞こえる声で話しているのに、彼はいたって普通だ。
「女子に注目されて、うやらましいよ」
「んー?」
隣を歩く湊に純一は呟くと、彼はいつもの笑顔で話を聞いてくれる。
「俺、モテたいのに異性に見られること無くってさ。どうしたら湊みたいになれる?」
俺みたいに? と湊は笑う。
「いくらモテたって、好きな子に振り向いて貰えなきゃ意味無いよ。純一は不特定多数に好かれたいの?」
もっともな意見が返ってきて、純一は黙った。
「少なくとも俺は好きだぞ」
「それは今言わんで良い!」
司が余計なことを言ったので、純一は「友達として、だよな!」と誤魔化す。
「あはは、仲良いねぇ」
湊は笑う。どこをどう見たら仲良く見えるのか、純一は知りたい。
すると、教室の方から「キャー!」と声が上がる。どうやら湊が笑ったかららしいが、なるほど、一挙一動に歓声が上がれば、それは煩わしいだろうな、と純一は思った。
「できれば俺とも、もっと仲良くして欲しいなぁ」
「え? 何言ってんだよ、当たり前だろ?」
純一はそれとなく言った言葉だったが、湊には意外だったらしい、驚いた顔で純一を見ている。
「ん? 俺何か変な事言ったか?」
「……いや」
湊は微笑む。女子が見たら卒倒しそうな笑顔だ。
三人は教科棟の階段に着くと、段差に座る。
司の言った通り、教室棟の喧騒が嘘のように静かだ。
「よくこんな所来ようと思ったよな。人がいなくてちょっと寒いし」
純一はコンビニで買ったおにぎりを取り出し、包装を開けながら言うと、湊も頷く。
「ん? ちょっと狭くないか?」
純一は、同じ段に三人とも座っている事に気付く。しかも、司と湊に挟まれて。
「そう? 少し寒いから丁度いいんじゃない?」
「純一、俺の弁当のおかず、食べるか?」
「司、人の話聞いてる?」
マイペースで話をする司に、純一は突っ込むと、目の前に卵焼きを差し出された。
「食え」
「食えって……俺の意見は……ってウマ!」
純一は差し出された卵焼きを食べると、その美味しさに思わず声を上げる。
これはご飯が進む、とおにぎりを頬張ると、司はまた違うおかずを差し出す。今度はさやいんげんだ。
純一は今度は躊躇わずそれを食べると、それも美味しくて思わず笑顔になる。
「うまー……」
「そうか、良かった」
良かったと言うものの、司は表情を変えず弁当を食べ始めた。
「あ、純一」
不意に湊に呼ばれて反対側を見ると、至近距離で湊が純一を見つめている。
「何? 近い近い!」
すると湊はそっと手で純一の頬を撫で、人差し指に付いた米粒を見せた。
「米粒、付いてたよ」
湊はその米粒を食べる。
変にドギマギしてしまった純一は、照れ隠しに声を荒らげた。
「まっ、紛らわしい事すんなよな!」
「えー? 何が?」
ニコニコと返す湊は、確信犯なのかそうでないのか、分からない。
純一は分からないなら良い、とおにぎりを食べる。
「俺ね、人との距離感が近いみたいで」
「んぐっ」
純一はむせた。やはり湊は分かっていてやったらしい。
「でも、好きな人以外には、こんなことしないよねぇ」
純一はお茶を飲みながら思った。
(さっきは女子が騒ぐの、ちょっと同情したけど……コイツはアレだ、自業自得だ)
湊の言う「好きな人」とは、きっと広い意味のものだろう。じゃなきゃ、女子があんなに騒ぐわけがない。
(イケメンで天然タラシとか、彼女作りたい俺には敵にしかならないのに)
もしかして、一番つるんではいけない奴と友達になってしまったのだろうか、と純一は心の中でため息をついた。
「純一」
司が呼ぶ。何だよと振り返るとまた、口の中に卵焼きを放り込まれた。
「明日からもここで食べよう。お前の分の弁当、作ってやる」
「それは良いけど……って、ええ!?」
これお前が作ったのか? と純一が聞くと、司はやっぱり無表情のままうなずいた。
「え、だって……作るの大変だろ? ってかそれもだけど、司、料理上手なんだなぁ!」
「弁当が増えたからって、手間は変わらない。……お前が笑顔になるなら、その手間も惜しくない」
「……っ」
純一は思わず赤面する。
(だから、どうしてそう歯の浮くような事を言うんだっ)
隣で湊が笑った。
「純一、餌付けされてるねぇ。俺には作ってくれないの?」
「お前は何だかムカつくから、コンビニ飯で充分だ」
珍しく司が自分の感情を言葉にしたのに、純一は気付く由もなく。
「えー、酷いなぁ」と言いながら笑う湊と、人知れず火花を散らす司に挟まれて、純一はガックリうなだれた。
(俺の高校デビュー、失敗したかも……)
純一は、思わず天を仰いだ。
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