3 / 43

第3話

次の日、純一は昨日のできごとを哲朗にSNSで伝えた。 登校しながら返事を待っていると、直ぐにスマホが鳴る。 『マジか。俺もその場にいたかったなぁ』 明らかにからかっている哲朗に、冗談じゃない、と純一は口を尖らせる。 『笑い事じゃないよ。俺の高校デビュー、どうしてくれるんだって思ったし』 『でも、記念すべき友達第一号はできたんだろ? 良いじゃないか』 友達と言えば友達だし、唯一声を掛けてくれた人だ、無下にはしたくない。 『でもコミュ障だし、何考えてるか分からない奴だよ?』 変なやつに好かれて、喜ぶやつがいるだろうか。 『コミュ障はお前もだろ? 昨日だって、どうせ声掛けられるまで待ってたんだろ? 結局話したのは、その司ってやつだけじゃないか』 (うっ……) 痛いところを突かれて、純一はぐうの音も出なくなる。 これ以上返信を続けるとボロが出そうなので、純一はスマホをポケットにしまった。 (見た目を少しでも良くすれば、声掛けられると思ったのに) そう思って、昨日の哲朗の七五三発言を思い出し、1人でムカつく。 純一は何故か昔から、女子と話してても『異性として見られない』『弟キャラ』と言われる事が多く、男として強くなりたいと、空手を習った時期もあった。 しかし同年齢の男子はおろか、女子にも負ける始末でふてくされて辞めるという、苦い経験を持っている。 (あの時は、県代表とかになる奴が相手だったし) そう言い訳して、本来の問題から目を背ける事が、男として以前に、人間としての魅力を下げている事に気付かず、その道を純一は突っ走る。 学校の教室に着いて、席にカバンを置くと、廊下から名前を呼ばれた。司だ。 「おはよう」 「……はよ」 登校二日目にして、まだ声を掛けられたのは彼だけという事実に、純一は心が折れそうになる。 廊下に出ると、司は純一の顔を覗き込んだ。 「元気がないな。どうした?」 「……」 別に、と言おうとしたところで、おはよう、と声を掛けられた。 見ると、いかにも女子が好きそうな優男がそこにいる。 明るめの茶髪にくっきり二重、背も高くてスラッとしている彼は、純一を見て話しかけてきたようだ。 「おはよう川崎くん。そっちの君は違うクラスだよね?」 「え? 俺の名前、何で知ってるんだ?」 純一が驚くと、彼は「やだなぁ」と笑う。 「昨日自己紹介してたじゃない。純一って呼んでいい?」 そう言えば入学式の後で、一人一人自己紹介していたのだった。しかし、純一は彼の事を思い出せない。 「そ、そうだったな。ごめん俺、お前の名前まだ覚えてなくて」 純一は頷くと、素直に覚えていない事を詫びる。 「いいよー。俺は多賀(たが)(みなと)。湊って呼んで。……で、そっちの彼は?」 湊は司に話を振ると、司はやはり表情を変えずに自己紹介をした。 「早稲田司。三組だ」 「そっかそっか、司って言うんだねよろしくー。で? 二人で何をしてたの?」 純一は心底ホッとした。湊が喋ってくれるので、場がもつのだ。純一にとっては救世主だ。 「いや、別に何かしてた訳じゃないよ」 「そう? 二人は同じ中学? 」 「いや、違う。俺が純一に一目惚れ……」 「わー! わー!」 司が正直に本当の事を言いそうになったので、純一は慌てて大声で彼の声をかき消す。 「友達! 司から声掛けられて、友達になったんだ。な? 司!」 余計なことを言うなよ、と陰で睨むが、司はいつも通りの表情だ。 しかし湊は気にした風もなく、話を続けてくれる。 「へぇー、新しい出会いってヤツね。ところで……」 湊は教室を親指で指した。 「今日、テストなの知ってた? 俺全然勉強してなくって」 「へ? 知らない」 湊は昨日説明があったけど、と人好きな笑顔で言っている。昨日いきなり連絡があったので、文字通り実力を見るためのテストだと、担任が言っていた、と湊は言う。 「流石に中学校卒業程度の問題しか出ないと思うけど」 「俺、戻って復習する! じゃな、司!」 純一は司の返事を待つより早く教室へと戻る。 残された湊はニコニコと「おー、早いねぇ」と純一の後ろ姿を見送っている。 「じゃあね、司くん。あ、君は復習なんて必要無いかな?」 「……いや、俺も戻る。じゃあな」 少し意味深な湊の言葉に、司は思うところがあったのか、二人はそこで別れたのだった。

ともだちにシェアしよう!