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第13話
次の日、あっという間に行事が終わり、最後のイベントのキャンプ場でのカレーライス作り。ベタだけど、やっぱり自分達で作って食べるという工程に、純一はワクワクしていた。
基本的に盛り上げ役の先生や生徒が頑張ってくれたおかげで、楽しい二日間になったな、と純一は満足している。
出来上がったカレーを紙皿によそい、決められたグループで食べようとした時だった。
「純一」
純一が振り返ると、司が皿を持って立っていた。
「司、どうした?」
司はやっぱり無表情で、持っていた皿を差し出してくる。
「食べるか?」
純一はキョトンとした。作った人が違うとはいえ、同じ材料で同じ料理を作っている。味に大差は出ないのではないか。
「いや、こっちは俺らが作ったカレーあるし」
「いいから食べろ」
司は皿をずい、と更に差し出してきた。構わず事を進めようとするので、どうしても食べないと満足してくれないようだ。
純一は持っていたスプーンで、司のカレーを一口食べる。
(ん? これ本当に同じ料理か?)
純一はもう一度司のカレーを食べてから、自分のカレーを食べてみる。その味の差は歴然で、司の方が断然美味しい。
「え、ちょっと待て。何で同じ料理でこんなに違うんだ?」
キャンプ場で食べる、炭火独特の風味も相まって、コクも舌触りも、具の火の通り具合も何もかも違う。
「お前は舌が良い。作りがいがある」
そう言って、司は口の端を僅かに上げた。純一がそれにすぐに気付いたが、理解するのに数秒かかる。
「え? 司、今笑ったのか?」
「……俺だって、笑う事くらいある」
司はいつもの無表情に戻った。勿体ないと思っていると、そこへ湊がやってくる。
「ごめんごめん、洗い物してたら女子に捕まっちゃって……って、どうしたの司?」
「あ、湊。司のカレー、めっちゃ美味いよ。同じ料理でよくこんな差出せるなって思ったよ」
純一が今しがた感じた感想を言うと、湊はニコニコと「へぇー」と返してくる。
「司、俺にもちょうだいよ」
「お前の分はない」
「何でー? まだお皿にいっぱいあるじゃない」
「これは純一の分だ」
またいつものように言い合いが始まった。こうなる事が分かっているのに、湊は司に自ら絡みにいくから厄介だ。
(しかも絶対、湊は楽しんでる)
うんざりした顔で純一はため息をつくと、やっぱり二人して純一を挟んで座る。
そして二人ともスプーンを純一の口元に差し出してくるのだ。
「純一、食べろ」
「ほら純一、あーん」
高校生にもなって、この構図は恥ずかしすぎる、と顔を引いた。
「自分で食べるから!」
周りの生徒は純一達を見て、「川崎、愛されてんな」と笑っている。
「いや、笑い事じゃないから! 助けてくれ!」
純一は叫ぶけれど、笑うだけで取り合ってくれなかった。
「お前らの、薄情者ー!!」
純一の叫び声が、静かな森に響いたのだった。
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