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第21話
「おはよー、純一」
「あ、湊……おはよう」
次の日、自分の席で荷物を整理していると、湊がやってきた。いつも通りに話しかけられたので、純一の方が少し戸惑う。
「昨日はあれから教室に来なかったから、心配したよ」
純一はそう言うと、湊はごめん、と苦笑する。
「あー……それについてだけど、ちょっと話があるんだ、良い?」
純一はドキリとする。昨日の事についてとなれば、その手の話しかない。純一は頷くと、人通りの少ない廊下に行く。
「なんだ? 話って」
純一が促すと、湊は頭をかきながら歯切れ悪く話し出した。
「うん……まず、昨日はごめん。これ言うの、すっごく恥ずかしいけど……あのまま一緒にいたら止まれそうになかったから」
「うん、大丈夫……」
純一も恥を捨てて、困惑したけれど嫌じゃなかったと言うと、湊はその場にしゃがみ込んでしまった。
「ちょ、湊?」
「ごめん今顔見ないで」
近寄ろうとした純一は、湊に止められその場に留まる。腕で顔を隠しているけど、隠しきれなかった湊の耳が赤くなっていた。
「何だろ……今までこんな事なかったのに……」
何でもスマートにこなす湊の、そんな風に呟く姿を見て、純一は少し可愛いと思ってしまう。
湊は立ち上がる。しかし耳は赤いままで、純一と視線が合わない。
「やっぱり俺、純一が好きだよ。改めて言いたくて……それで、一度デートしてくれない?」
湊はまだまともに純一を見ることができないのか、床を眺めるばかりだ。
純一は、そういえばいつも三人一緒に行動するけども、湊と二人で遊んだ事はないな、と気付く。
(二人とそれぞれデートしたら、何か分かるかも)
純一は頷いた。ただ、司ともデートしてみるという事を条件にして。
「ありがとう……はぁぁぁ」
湊は礼を言うと、またその場にしゃがみ込んだ。
「緊張したぁ……」
「湊でも緊張するんだな」
純一は、珍しい湊が見られて少し得した気分になった。小さくしゃがみ込む湊のこんな姿、女の子が見たら間違いなくキュンキュンしているだろう。
「こんなに緊張したの、久しぶりだよ」
湊はやっと純一を見て苦笑した。純一も笑うと、また湊は気まずそうに視線を逸らす。
「もー……これだから純一は……」
どうやらまた照れてしまったらしい。純一は戻ろう、と促すと、湊は素直に付いてきた。
二人は揃って教室に戻ると、司が廊下で待っていた。
「どこ行ってたんだ?」
「ん? 昨日の事を謝ってただけ」
湊がいつも通りを装うと、司も「そうか」とだけ言って純一の席まで付いてくる。
「純一、今度の日曜、空いてるか?」
いつものポジションにつくと、珍しく司から話題を振ってきた。湊からデートに誘われた直後だからか、タイミングが良すぎる提案に、話を聞いていたんじゃないかと思う程だ。
「空いてるけど?」
「買い物に付き合って欲しい」
「別に良いけど……」
「それ、俺も一緒に良い?」
湊が割って入ってくる。司は意外にも「ああ」と肯定し、三人でショッピングモールに行くことにした。
「でも、珍しいね、司がそんな事を言うの。何を買うの?」
そう言えば、この間哲朗たちと遊んでいて偶然会った時は、一人で来ていた。わざわざ純一に頼んで行く買い物とは、一体何を買うのだろう。
「……本」
司は「あそこの本屋は、品揃えが良いんだ」と言って、持っていたハードカバーの本を開く。
隙さえあれば本を読んでいる司。純一は彼がどんな本を読んでいるのか、少しだけ気になった。
「いつもどんな本を読んでるんだ?」
すごく今更な質問だと思うが、司は嫌な顔せず、と言うか、いつも通りの無表情で答えてくれる。
「基本何でも読む。面白そうと思ったものなら」
文字を見ただけで眠くなる純一とは、きっと身体の造りからして違うのだろう。ふーん、と聞いておいて興味無さそうに相槌を打つと、チャイムが鳴った。
「聞いておいてその相槌は無いでしょ、純一」
湊が笑う。司も気にした風も無く、本を閉じた。
「また詳細は後で決めよう。じゃあ」
そう言って、司は教室に戻って行った。
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