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一人じゃ見られない景色 16
『あんな変態と付き合うって言い出すから心配で入れたのよ。何かあってからじゃ遅いでしょう?』
「美影ちゃん・・・」
『とにかく!早く帰ってきて!』
「・・・・・・・・・・・・・・・・わかりました」
ボクの返答を聞くと、満足そうにしながらも、更に念を押してから美影ちゃんは電話を切った。
「薫?」
芳(かんば)しくない表情をしているボクを見かねて、悠貴さんが心配そうに声をかけてくれる。そっと肩を抱いて、広い胸に抱き寄せてくれた。
「悠貴さん・・ごめんなさい、早めに帰んなきゃ」
「うん・・・」
「美影ちゃん、追跡アプリいれてたみたい」
「え?!・・・そうか・・・アイツさすがだな・・・」
悠貴さんが残念そうに、肩を落としたのがわかった。たまの休みだから、ここまで来て二人っきりになりたかったんだもん。
ボクだって、本当は今日の夜まで、ずっと二人きりでいたい。
それでも悠貴さんはふんわりを微笑んで、ボクの額(ひたい)に軽くキスをしてくれた。
「しょうがない・・・『家族』になるには、まずは信用してもらわないとな」
「え・・・悠貴さん・・・」
「薫の・・・『家族』になっていいか?」
悠貴さんが少し体を離して、ボクの瞳を覗(のぞ)きこみながら、ふんわりと微笑みながら言う。
不意に、視界が滲(にじ)んだ。
涙が込み上げてきて、視界を歪ませて、瞳から溢れて落ちては、更に涙が溢れて、溢れて、頬を伝って幾粒も落ちていく。
ボクは喉(のど)をこじ開けて出てきそうになる嗚咽(おえつ)を我慢しながら、悠貴さんに何度も何度も肯(うなず)く。
「良かった」
「ゆうぅ・・・きさぁ・・・」
子供みたいに泣きじゃくるボクを悠貴さんは強く抱き締めてくれる。大きな広い胸に抱きしめてくれて、大きな優しい手で頭を撫ぜてくれる。
そして少し楽しそうに、くすくす笑いながら言った。
「美影な・・・本当ブラコン。ちゃんとしないと、いつまでも追跡アプリで見張られそうだし」
「くすくす・・ごめんなさい・・・」
悠貴さんがボクの顎を捕らえて上に向かせる。悠貴さんの精悍(せいかん)な顔が近づいてくる。薄い口唇がボクの額にキスをして、瞼(まぶた)に鼻に、頬に口唇にキスをしてくれる。
悠貴さんが『家族』になるって言ってくれて、嬉しくて。
本当に、泣きそうに嬉しい。
「悠貴さん・・・大好き」
「しっ・・黙って」
悠貴さんの口唇が、ボクの口唇に重なって。舌が入ってきて、きつく吸われて舐めて、深い口吻けをしてくれる。
同時にボクをしっかりと抱きしめて、離さない。
ボクもその口吻けに応えながら。
悠貴さんを抱きしめて。
離さなかった。
Fin
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