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プロローグ
火曜日の3限目の前と、金曜日の6限目の前、僕は必ず教室の窓の外に視線を向ける。
移動教室のために渡り廊下を使って別館へ向かう、キラキラした彼の後ろ姿を見るために。
✱✱✱
マッシュに切り揃えられた栗毛色の髪に少し垂れている丸っこい真っ黒な瞳で、割とどこにでもいそうな地味な僕、五十鈴 結翔 は双子の姉2人、兄1人が居る4人兄弟の末っ子だ。
幼い頃から双子の姉2人にはオモチャにされ、歳の近い兄には鬱陶しい程に構い倒され、僕は割と図太く成長したと思う。
両親は今でも僕の方が照れちゃうくらいラブラブで、毎年結婚記念日から数日間2人っきりでの旅行を欠かさない。僕達が幼い頃は両親が旅行の日は、じいちゃんばあちゃんのお家にお泊まりが出来る特別な日だと思っていたんだよね。今では姉ちゃん2人が大学生になったから、両親の旅行中も僕達兄弟はそのまま家に居るようになったけど。
小さい頃からラブラブな両親を見続けてきた僕は、2人みたいに何年経ってもお互いを尊重して愛しあえる関係に憧れてるんだ。僕もいつかそんな相手が出来たらいいなって夢見てる。恥ずかしいから内緒だけどね。
でも中学の時、僕が誰かと両親みたいな関係を築くのは難しいかもしれないって、すごく落ち込んだ時期があった。
僕の恋愛対象が、僕と同じ男性だって、気付いてしまったから。
友達が好きだと言う可愛らしい女性アイドルより、格好いい、綺麗な男性アイドルの方に目が惹かれる。
友達が見せてきた女の人のエッチな雑誌に興奮できなかった。
まろみがある女の人の体より、鍛えられた男性の筋肉に心臓は反応してしまう。
女の人の事、可愛いな、とは思うけど、それだけなんだ。
正直、何かの間違いだって思いたかったけど、女の子にボディータッチされた時より、男友達にふざけて肩を抱かれた時の方がドキドキして、僕はストンと腑に落ちてしまったんだ。
僕はどんなに否定したくても、男の人が好きなんだって。
当時はたくさん悩んだし先の事を考えて落ち込みもした。
けど僕、やっぱり図太かったみたいでさ、好きなもんは好きなんだからしょうがないかって、ある程度悩んだら吹っ切れちゃったんだ。
両親みたいな関係になれる相手は見つからないかもしれないけど、いつか好きな人が出来たら、たとえ両思いになれなかったとしてもその気持ちを大事に大事にしようって決めた。
僕の気持ちを僕が大事にしなかったら、せっかく芽生えた恋心が可哀想だ。
相手には伝えられなくても、想うだけは、僕の自由でしょう?
こうして変に開き直った僕は、ゲイの人が多いって噂の男子校を受験する事にした。万が一、億が一の可能性に賭ける事にしたんだ。
想うだけは自由だって言ったけど、やっぱり夢は夢だから。恋人が出来る可能性がゼロじゃないなら賭けてみたいじゃないか。
その男子校は進学校で、偏差値が高かったから一生懸命受験勉強を頑張った。元々勉強が出来るタイプだったから、余裕で合格圏内だって先生からも言われてたけど、万が一にも不合格になんてなりたくなかったから、今までの人生で1番頑張ったかもしれない。
そうやって入学したこの学園で僕は、初めての恋にストンと落ちてしまったんだ。
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