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誰よりも綺麗で美丈夫な不良さん①
彼こと田原 蓮 先輩に初めて会ったのは、入学して少し経ち高校生活に慣れてきた初夏。
爽やかな風が肌を撫で、少しずつ暑くなってきた時期だった。
放課後、借りていた3冊の分厚い本を両手で抱えながら別館にある図書室に向かうために渡り廊下を歩いていると、ドアの先に設置してある自動販売機を使うためか、開け放たれたドアの周りに人が数人立っていて入り口が塞がれてしまっていた。
しかも遠目から見ただけでも分かるくらいみんな髪の毛の色が派手なのだ。
知らない派手な人達に退いてください、なんて言う勇気が無かった僕は、1度立ち止まり視線を下に向けて考え込んだ。
遠回りになっちゃうけど、やっぱり1度校舎まで戻って下の中庭を通って行こう、と決めて踵を返そうとした時、パシリと大きな手に腕を掴まれた。
驚いて下を向いていた顔を上げるとそこには
凄くキラキラしている綺麗な不良さんが居たんだ。
何を言ってるんだって思うでしょう?僕も思う。でもね、本当にキラキラで綺麗な不良さんだったんだ。
僕より頭ひとつ分高い位置にある小さい顔、8頭身の身体はスラッとして見えるのに、捲られたシャツの袖から覗く腕は意外と筋肉質でしっかりしている。
サラサラと流れる少し長めの髪の毛は透けるように綺麗なホワイトベージュ。降り注ぐ陽の光を反射してキラキラと輝き、そこから覗く耳元にはたくさんのピアスがジャラジャラとついていて存在感を放っている。
長い前髪から覗く意志の強そうな色素の薄いグレーの瞳は凛としていて、右目の下には2つの黒子が縦にお行儀よく並び、細く通った綺麗な鼻筋に形の良い唇は固く引き結ばれている。
その冷たく見える程に整った顔の造形に、思わずポカンとしたまま見惚れてしまう。
美丈夫って、正にこんな人の事を言うんだろうなぁ。
「通れば」
意外と声は低いんだなぁ・・・、なんて見当違いの事を考えていると、眉間に皺を寄せた綺麗な不良さんはポカンと固まったまま反応のない僕の腕をそのまま引っ張って歩き始めた。
「へぁ!?」
驚いて変な声をあげてしまった僕は、なんで手を引かれているのか分からず慌ててしまう。
背が高いうえに脚も長い綺麗な不良さんに引っ張られると165センチしかない僕は小走りにならないと転んじゃう!と、慌てて小走りで引っ張られるままついて行くといつの間にか渡り廊下のドアをくぐり、階段前に立ち止まっていた。
「あ・・・、あの・・・?」
僕の腕を掴んだまま背中を向けて立ち止まってしまった不良さんに恐る恐る声をかけると、不良さんは僕の腕を離す事なくこちらを振り向いて無表情のまま口を開いた。
「通りたかったんだろ?邪魔して悪い」
ぶっきらぼうな言い方なのに、声色は凄く優しくて。
その声を聴いた瞬間、僕の心臓は何故だかバクバクと鼓動を早めたんだ。
「レン〜!何してんのぉ。行くよ〜!」
その時、さっき自動販売機の前に一緒にいた青い髪の毛の人が声を上げ、おー、と返事をした彼がチラリとそちらに視線を向けて僕の腕から手を離した。
「じゃ。お前ちっこいんだから本落とさないように気をつけろよ」
無表情のままそう言って僕の頭をポン、と1度撫でた彼はサラリと僕の横を通り過ぎていく。僕、まだお礼も言えてないのに!
「あ、あの!ありがとうございました!」
慌てて声を出したから思った以上に声が大きくなってしまったけど、ちゃんとお礼が言えた。ホッとして肩の力を抜くと、僕の大声にビックリしたみたいに立ち止まった彼は、チラリと僕を見て笑い、ヒラヒラと手を振り今度こそお友達さんたちと渡り廊下を渡って行ってしまった。
ーーー・・・笑顔、凄く可愛かった。
綺麗なのに可愛いなんて、反則だ。
彼が見えなくなるまでぼぉっと後ろ姿を見つめてしまう。未だ心臓はドキドキと煩いし、顔は熱く多分真っ赤だ。
この学校では学年ごとにネクタイの色が変わる。今年は1年が赤、2年が緑、3年が青。さっきの不良さんたちは誰もネクタイしてなかったから何年生なのか分かんないけど・・・、でも入学式にあんな綺麗な人が居たら目立つはずなのに見た記憶は全く無いから、多分緑か青の先輩だと思う。
レン、って呼ばれてた。
「レン、先輩」
誰にも聞こえないくらい、小さな声で呟いた彼の名前は、僕の心を酷く乱す。
多分、一目惚れ。
その後、その不器用な優しさにまた心を奪われた。
恋って、もっと穏やかに育まれていくものだと思ってた。なのにこんなふうに突然落っこちるみたいに・・・。
・・・どうしよう。あんな外見も中身も凄く綺麗な人。勉強しか取り柄がないような僕とは違う、可愛くてふわふわした女の子が似合うような、キラキラした雲の上の人。恋人だって居るはずだ。
「初恋は実らない、ってやつかなぁー・・・」
ポツリと呟く声は静かな空間に消えていく。
この日から僕の目は、勝手にレン先輩を探しちゃうんだ。
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