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アニマルセラピー④
side:田原蓮
俺が渡したプリンを美味そうにもぐもぐ頬張っている結翔をジッと見つめていると、自分の心が穏やかに、じんわりと温かくなっていくのを感じる。
ーーー今思い返せば、結翔に初めて出会った時からこんな風にそばに置いておきたかったのかもしれない。
あの日、蜜樹がどうしてもパックのミルクティーが飲みたいって言い出して、半ば引き摺られるように自販機までツレと一緒に連れて行かれたんだ。
正直暑いの嫌いだし渡り廊下を通らないと行けないあの自販機に行くのは怠くて嫌だったんだけど、蜜樹は言い出したら聞かねぇから。
俺はもう飲み物持ってたし、蜜樹達がミルクティー派だのストレートティー派だのを自販機前でギャーギャー言い合ってるのをボケっと見てた。暑いから早くしろよって思いながら。
そしたら視界の端にチラッと近所のクソ可愛い柴犬が見えた気がして。
いやこんな所に犬が居るわけないよなって驚いて渡り廊下に視線を向けたら、ちびっこい奴が下向いてジッと立ち竦んでたんだ。
俺が柴犬に間違えたのはあのチビッコの髪の毛だったらしい。
隣の柴犬と同じ色のその髪の毛は風に弄ばれてふわふわ揺れてて、あれを思いっきり撫でたら気持ち良さそうだな、なんて思ってジッと観察するみたいに見てたけどチビッコはその場から一向に動かなくて、そこでやっと気付いた。
ここを通りたいのに俺らが怖くて通れないのか。普通のやつにも怖がられて遠巻きにされる事が多いのにあんなチビッコ、俺らみたいなの怖いに決まってるよな。
なるべく怖がらせないように連れて来てやろう。
普段そんな面倒な事は絶対しないのに、何故かその時はそう思って未だギャーギャー騒いでる奴らを放ってチビッコの所に歩いて行ったら、その瞬間俺に気付かずに振り返って帰って行こうとしたから焦った。
焦ったあまりに怖がらせないようにって思ってたのに思いっきり腕掴んじまった。
振り返って俺を見たチビッコは、少し垂れたまん丸な瞳がこぼれ落ちそうなほど目を見開いてポカンってしてて、可愛い奴だな、なんて思った。
人間に対して可愛いなんて思ったの、初めてだったからちょっと動揺したんだろうな。
思わず通れば、なんて素気なく言ってしまった事にちょっと自己嫌悪しながらも、声をかけてもポカンとしたまま俺を見つめ続けてるチビッコに、動けないくらい怖がらせちまったのかなって思わず顔を顰めてしまった。何してんだ俺。
でもこのままココで立ち止まったままだとアイツらが俺が居ないの気付いてこっちに集まってきてしまいそうだなって思った俺は、とりあえずこのまま引っ張って行く事にした。
あんな派手な奴らに囲まれるよりは俺に手を引かれる方がまだマシだろって。いや、マシであってくれ。
俺の後ろをちょこちょこと着いてくるチビッコに、柴犬っていうか豆柴っぽいなぁなんて思いつつアイツらから隠すように通り過ぎて階段前まで連れて行った。
でもまた怖がらせちまうんじゃないかって、豆柴ちゃんの方振り向けなくて、どうしたもんかなって思った時、おずおずとって感じで声かけてくれたんだ。
これ以上怖がらせないようにって気を付けながら振り返って悪いって謝ったら、豆柴ちゃん、キョトンってしたんだ。それがまた可愛くて癒された。
思わずそのまま撫で回したくなって手を伸ばそうとした瞬間蜜樹がニヤニヤしながら声掛けてきた。
よっぽどそのまま先行っとけって言おうかと思ったけど、その場合俺の言うことなんて聞かずにこっちに来てしまいそうだと直感で思った俺はため息を飲み込んで返事をした。
よく見ると豆柴ちゃんは本を3冊も抱えていて、こんな細腕で落とさないか心配になった俺は思わず気を付けろよって言って頭を撫でて、反応が返ってくる前にって後ろ髪を引かれながらもその場を離れたんだ。
髪の毛、思った通りフワフワでサラサラだったな。また撫でさせてくんねぇかな・・・、なんて思ってたら急にすげぇデカい声でお礼を言ってくれて。
正直いきなりのデカい声に驚いたんだけどさ、振り向いたらなんか柔らかそうな頬っぺたを赤く染めてヘラって笑ってて、意外と怖がれてなかったのかもって嬉しくなって俺も気付いたら笑ってた。
俺、普段あんまり笑う事ないからか、それを見た蜜樹が五月蝿くて五月蝿くて・・・。
でも、あの子誰!?って聞かれた時、そういえば名前聞き忘れたって気付いた。不覚。
まぁ同じ学校だしまたすぐ会えるだろうって思い直して、蜜樹には豆柴ちゃん。って答えといた。
それからしばらく蜜樹に『噂の豆柴ちゃん見つかった?』ってニヤニヤしながら言われ続けて、正直ちょっと怠かったんだけど。
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