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アニマルセラピー⑬

地に足がついていないようなふわふわした気分で自分の教室へ帰り自席に座る。 本当に僕、蓮先輩とちゅーしちゃったんだよね。夢じゃないよね? 蓮先輩の唇、ちょっと冷たくて柔らかくて・・・たくさん唇ハムハムされちゃった。僕、変な顔してなかったかな?何も考えられなくていっぱいいっぱいになっちゃたし・・・。 まだ少し赤らむ顔を隠すように俯いたまま蓮との甘いキスを思い返し、無意識にスリっと自らの唇を触りながら、ほぅ・・・とため息を溢した。 なんで蓮先輩は僕にちゅーしてくれたんだろう?昨日はペットって言ってたのに・・・。 あ、もしかして蓮先輩にとってはペットと戯れてる感覚なのかな? 正直大好きな蓮先輩に触れてもらえるなら理由なんてなんでもいい、なんて思ってしまう。 好きになった人と普通にお話しできて、一緒にご飯を食べたり触れ合ったりできるなんて僕からしたら夢のまた夢だったんだもん。 たとえ恋人じゃなかったとしても、蓮先輩の傍に居られるのなら・・・。 少しだけ、ほんの少しだけチクっとしたその意味を無意識に振り払うように、蓮一色だった思考を次の授業へと無理矢理移した。 ✱✱✱ 「ゆーいっ!今日こそ2人でかーえろっ!」 放課後、鞄に教科書を詰めていると後ろからガバリと匠に抱きつかれた。 「えっ?2人はいいの?」 「いーのいーのっ!今日は僕、静と陸がなんと言おうとゆいと2人で帰るって決めてるのっ!昨日はせっかくのカフェ、堪能できなかったんだし今度こそ2人で美味しい甘いの食べに行こう? ───お昼の様子を見る限り、静にはもう少し頭冷やしてもらわないとだしね」 「え?ごめん、最後なんて言ったの?聞き取れなかった」 ボソリと呟かれた言葉が聞き取れず首を傾げると、にっこりと笑った匠はなんでもなーい!ってヒラリと腕を離して僕の横にしゃがみ込んだ。 「ね、行こう?いいでしょ?」 上目遣いでキュルンとした瞳を向けてくる匠に思わず苦笑してしまう。 「もー・・・、それされるの僕が弱いって知っててやってるでしょ」 「へへ〜、バレてたッ?だってゆいと一緒に遊びたいんだもんっ!それともなにか用事あった?」 あっという間にしょぼんとしてしまった匠が可愛くてクスクスと笑ってしまう。 「んーん、いいよ。一緒に美味しいの食べに行こう!」 「本当っ?やった〜!どこ行く?何食べる?」 「ん〜、そうだなぁ。・・・プリン、食べたいかも」 蓮先輩が好きだって言ってたプリン。美味しいお店知ってたらもしかしたらいつか一緒に行ってくれるかもしれないし、なんて。 「プリンだったら〜・・・、ちょっと遠いけど駅前の方に昔ながらっぽい固めのプリン置いてるお店あるの知ってる?」 「んーん、知らない。固めのプリンかぁ。僕あんまり食べた事ないかも」 「僕のお姉ちゃんがちょっと前に行ったらしくて美味しかったって言ってたんだよね」 「そうなんだ。匠のお姉さんが言うんだったら本当に美味しいんだろうなぁ。行ってみたいっ!」 「じゃあ決まり!今日は駅前だねっ!」 「うんっ!楽しみだなぁ〜!」 2人でキャッキャと盛り上がりながら教室を出る。 その楽しそうな後ろ姿を、俺だってゆいに美味しいもの食べさせたいのに・・・と悔しそうに見つめる静と、俺も匠と一緒にプリン行きたかった、としょぼんとする陸。 顔を見合わせてハァ・・・とため息をついた2人は、心なしか項垂れた様子で揃って教室を出た。

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