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アニマルセラピー⑲

翌朝いつも通りに目を覚ました僕は、起きてすぐに携帯を手に取った。もしかしたら静から連絡が来てるかもしれないしね。 でも流石にこの時間じゃ起きて無いかなって思いながら通知を確認してみたんだけど、深夜に静からメッセージの通知が来ていて思わず被っていた布団を蹴り上げるようにしてガバリと起き上がった。 そのまま思わず正座をして何度か深呼吸をしてから通知をタップ。なんだか緊張する。 『ゆいはもう寝てるよね?遅くにごめん。俺もゆいと気まずいままは嫌だよ。ちゃんと話そう。明日の朝、いつもより早く登校出来るかな?起きて行けそうだったら教えて欲しい。おやすみ』 ───よかった。静も気まずいままは嫌だって思っててくれたんだ・・・。 緊張して詰めていた息をほぅ、と吐き出した後、パッと時間を確認して急いで返信を打ち込む。 『おはよう。返事ありがとう。絶対早く登校するからお話ししよう?』 送信をタップした瞬間既読が付いて驚く。 まだ朝の5時半なのに静が起きてる。いつも夜遅くまでゲームしてるから朝はギリギリまで寝てるみたいなのに珍しいなぁ。 『ありがとう。教室じゃ話しにくいし、別館の階段前で待ってる』 『分かった。ありがとね』 別館の階段前って僕が蓮先輩と出会った辺りだ。あの辺を朝通る人ってほとんどいないし、お話しするにはもってこいなのかも。 そう思った僕は急いで返事をしてから、いつもより早く登校出来るように急いで身支度をして父さんが待っているだろうキッチンへ向かった。 ✱✱✱ いつも通りみんなのお弁当を作って(ちなみに今日のメインは昨日蓮先輩に告知した通りカボチャのコロッケ。甘い巻き卵もちゃんと入れてある)いつもだったらゆっくり朝ごはんを食べて登校するんだけど、今日はお弁当作りの時についでに作っておいたおにぎりをもぐもぐしながら家を出た。 お行儀悪いけど今日ばっかりは許してほしい、なんて自分で自分に心の中で言い訳をしながら登校した。 教室に鞄を置いてから行こうかなって思ったけど、やっぱり待ち合わせ場所の方が近いしなぁ、と鞄を持ったまま別館へ向かった。 まだ朝早いから登校しているのは部活の朝練がある生徒達だけで、吹奏楽部の楽器の音や運動部の掛け声などが静かな校舎に響き渡る。 渡り廊下の先に視線を向けるとそこには既に静が待っており、視線を床に落としたまま壁に寄りかかっていた。 「静!おはよう。ごめん、待たせちゃった?」 慌てて静が立っていた所まで小走りで向かうと、俯いていた静が顔を上げていつものように笑顔で迎えてくれる。 「おはようゆい。いや、俺もさっき来た所。あと走ると危ないよ」 いつも通りの静の様子に少しホッとする。あの日から静の顰めっ面しか見てなかったからなぁ。 そんなふうに思って、頬がふにゃりと緩んだ。 「えへへ・・・。いつもの静だ。良かった。・・・こないだはごめんね。静は心配してくれてたのにあんな言い方しちゃって」 「いや・・・。俺の方こそごめん。嫌な言い方だったよな。俺さ、ゆいが・・・ゆいが大事なんだ」 吐き出すようにそう言った静は視線を床に落とした。 「僕も静の事大事だよ。2年生になってクラスが別れちゃったとしても、卒業して進路が別々になっちゃったとしても、ずーっと仲良くして欲しいって思ってる。成人したら僕と匠と陸と静の4人で一緒にお酒が飲んでみたいな、なんて大人になっても一緒に居るの想像しちゃうくらい大好きなんだよ」 言ってからちょっと苦笑してしまう。まだ入学したばっかりの、しかも1学期でこんなふうに思うなんてちょっと重たいかも?なんて思っちゃって。 そしたら静、嬉しいような、切ないような、そんな表情で笑って。 「・・・・・・静?」 僕、やっぱり重かった?なんてちょっと不安になって眉を下げてしまう。 「・・・ゆいはお酒弱そうだな。一緒に飲むのが楽しみだ」 そんな僕を見ていつも通りフって笑った静に頭を撫でられて、いつもみたいに揶揄うような声色でそんなふうに言われて。 その顔にはさっき感じた切なさとかは全然浮かんでいなくて、見間違いだったのかなって混乱した。 でも静がいつも通り話してくれるのがやっぱり嬉しくって、僕もいつも通りぷくりと頬を膨らませた。 「僕だってお酒強いかもしれないよ?うちの母さんザルだし!静よりガブガブ飲めるかもしれないんだからね!」 「ははッ!そうかもな?ゆいの父さんも強いの?」 「・・・・・・父さんは弱い」 「じゃあゆいも弱いかもよ?ゆいは父さん似なんでしょ?」 「ぐぅ・・・・・・!でもお酒の強さは父さん似じゃ無いかもだし!まだわかんないもんっ!」 楽しそうに笑う静に嬉しくなって僕も笑う。 そんなふうにいつも通りの掛け合いをしていると、不意に真剣な顔になった静に問いかけられた。 「ゆいは・・・、ゆいはさ、あの先輩の事恋人にしたい対象で好きなのか?」 その言葉に、僕の思考が少しの間停止した。 ───僕の恋愛対象が同性なのを知っているのは家族と匠だけ。 本当は家族以外に打ち明けるつもりは無かったんだけど・・・でも高校での初めての友達ですぐに大好きになった匠に陸の事をコッソリ教えてもらった時、まだ出会ってすぐなのに大事な秘密を教えてくれた匠にだけは僕も言っておきたいって思えたから僕もコッソリ匠にだけ伝えた。匠の事はなぜかスルッと信じられたから。 でもまだなんとなく陸や静に伝える勇気が出なくて。2人を信じてない訳じゃないし、大事な友達なんだけどね。匠も僕が陸や静にカミングアウトしない間は絶対に言わないよって言ってくれてたし、陸はもちろん静も知らなかった筈なのにどうしてそんなふうに思ったんだろう・・・? だって僕が当たり前にノンケだと思ってたから静もお嫁に来たらいい、とかいつもみたいな冗談が普通に言えたんだよね?普通同性相手にそんな冗談言っても本気にしないもん。 だから本当はいまだに自分の恋愛対象を静に言うのが怖い。今まで通り居られなくなっちゃったら嫌だなって思うし、もし静に引かれたら凄く傷付くのが自分でも分かっちゃうくらい大事な友達になっちゃってるから。 でも陸と匠の事を普通に・・・自然に受け入れている静なら、僕も受け入れてくれるって信じたい。 っていうか、やっぱり・・・なによりも大事な友達に嘘吐きたく無い。 覚悟を決めるためにグッと1度唇を噛み締めてから勇気を振り絞って口を開いた。 「・・・うん。そうだよ。僕の恋愛対象は同性だから」 少し震える声で告げたけど、静の反応を見るのがやっぱり怖くて視線は下に落ちていく。 「・・・・・・そうか。ゆいはあの先輩が好きなんだ、な・・・」 そう呟いた静に、あれ?気になる所そっち?同性が恋愛対象って所じゃなくて?ってちょっと動揺しつつソロリと視線を上げると静が複雑そうな顔をしていた。 「はぁ・・・。やっぱ俺ヘタレの大馬鹿野郎すぎんか。チャンスアリアリのアリだったんじゃんか・・・。いや、これから?よく考えたら友達位置って意外とオイシイ?俺の目標は将来同じ墓に入る事だし?まだ学生だし?くっついたとしても別れるかもだし?最終的に俺の手の中に落ちてきてくれればそれで良いか。腹は立つけど。長期戦だな、うん。そう思っておこう。遥が幸せなうちは・・・。うん、親友ポジ死守だな」 静がブツブツと何やら小声で呟いていたけど何て言っているか分からなくて首を傾げると、なんだか吹っ切れたような良い笑顔で頭をぐしゃぐしゃと撫でられた。 「ゆい、もしあの先輩になんか嫌な事されたり傷付けられたりしたら真っ先に教えろよ?ゆいは俺の大事な親友なんだからな」 ───親友!静が親友って言ってくれた! その言葉が嬉しくって瞳をキラッキラに輝かせた結翔は、首が取れちゃうんじゃないかっていうくらい何度も何度も首を縦に振った。

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