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凄く甘くて少しだけほろ苦い①
「行ってきまぁす!」
───昨日の夜は思い出し身悶えしててちょっとだけ寝不足な僕は、ふわぁ〜って大きなあくびをしつついつも通りの時間にお家を出たんだけど。
「あ、おはよ」
「・・・蓮先輩?あれ?僕まだ夢見てる?」
僕のお家の前に蓮先輩が携帯をいじりながら立っていたのである。やっぱり僕寝惚けててまだ夢の中なのかな!?って混乱した僕は思わず両手で頬っぺたを抓ってみる。
・・・うーん、痛い。あれれ?
「こら、何してんの」
クスって少し笑った蓮先輩に頬っぺたを抓っていた両手を回収されてなぜかそのまま僕の右手だけ離さず指を絡める蓮先輩。
痛いって事は夢じゃない、よね?なんで蓮先輩がココにいるんだろう?とかなんで今僕蓮先輩と恋人繋ぎしちゃってるんだろう?とか蓮先輩朝から格好良いよぅ、とか色々グルグル頭を駆け抜けて僕の頭は大混乱だったんだけど。
「お、おひゃようござい、ます・・・?」
僕のお口は脳内の混乱よりも蓮先輩に挨拶を返すことを最優先にしたらしい。混乱してたから噛んじゃったし何故か疑問符付いちゃったけど。
蓮先輩に挨拶してもらったんだからとりあえず挨拶返さなきゃ失礼だし、僕の脳内のアレコレをスルーした僕のお口偉い。
そんな僕を何故か微笑ましそうに見つめる蓮先輩に、手を繋いでいない方の手でさっきまで抓っていた僕の頬をスルリと撫でられた。
「抓っちゃだめだろ?俺の可愛い結翔の頬っぺたに傷がついちまう」
・・・蓮先輩が『俺の可愛い結翔』って言った!うわぁ・・・・・・、うっわぁ!!
正直僕みたいな平凡な男の何が可愛いと思えるのかはサッパリ、1ミリも、1ミクロンも分からないんだけど。
でも大好きな蓮先輩にそんなふうに言ってもらえるだけでも嬉しくなっちゃうのに、『俺の』なんて言われちゃうと舞い上がって空飛べちゃいそう。
多分今すっごく顔が熱いから真っ赤かになっちゃってると思うし舞い上がっちゃってる僕の表情はきっとだらしない。
なのにまだ蓮先輩に頬っぺた撫でられてるから隠せなくて。
なんだかこんなふうになっちゃってるのが恥ずかしくなってきちゃって、思わずギュッて目を瞑ってしまう。
「あー・・・・・・。クッソ可愛い。コレ本当に俺の?信じらんねぇー・・・。天使かな?いや・・・無自覚小悪魔か?」
僕がギュッて目を瞑って蓮先輩にされるがままになっていると、なんだかくぐもった声が蓮先輩の方向から聞こえてきたんだけど自分のドキドキ煩い心臓の音のせいでちゃんと聞き取れなかった。
なんて言ったんだろう?ってうっすら目を開けたら蓮先輩の綺麗なお顔のドアップが視界いっぱいに広がって思わずまたギュッて目を瞑ってしまう。
───ちゅっ
僕の少し引き結んだ唇に一瞬だけ触れた蓮先輩の冷たい唇。
あ、ちゅーされたんだ、って認識した途端に身体がブワッと熱くなる。
離れていっちゃう蓮先輩の気配におずおずと瞼を上げると、ニヤリと少し悪い顔をして笑った蓮先輩に耳元にコソッと囁かれた。
「可愛い顔・・・。続きは昼休憩にゆっくり、な?」
それでまた林檎みたいに真っ赤になっちゃったけど、また蓮先輩に触れてもらえる約束が出来たのが嬉しかった僕は思わずコクコクと何度も首を縦に振った。
それにしても僕が『蓮先輩だけのもの』になったから今日迎えに来てくれて、こんなふうに構って貰えてるんだよ、ね?
そう思うと蓮先輩だけのものって本当に凄い。
だってこんなの・・・こんなのって!か、かっぷる、みたいじゃない!?
こんな幸せなのが続いたら僕の心臓、壊れちゃうんじゃ?なんて思ったけど、やっぱりそんなふうに構ってもらえるのが嬉しくて。
早くお昼休みにならないかなぁ・・・?なんて僕の手を引いて学校の方向へ歩き始めた蓮先輩の後ろ姿をぽわぽわと見つめながら思っちゃった。
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