67 / 96
凄く甘くて少しだけほろ苦い⑮
「ゆい〜、そんな落ち込まないでぇ」
LHRも終わり、パラパラと生徒達が教室を出ていく中、机に突っ伏してしまった僕の頭を匠が撫でてくれている。
「だって・・・借り人競争はともかく、僕二人三脚とか足引っ張る気しかしないデス・・・。頑張るけど・・・頑張るけどぉ・・・!ごめん匠ぃ〜!」
そう、僕はジャンケンに惨敗したのである。
あっさりとどっちも負けて、借り人競争と二人三脚にエントリーされてしまった。ショック。
リレーとか足の速さが大事なのとかは、体育の記録の上から順番に選ばれてて選択肢に無かったのがせめてもの救いだったけど。
「大丈夫だよ、一緒に頑張ろうっ!たくさん練習すれば上手く走れるようになるよ!」
「う〜・・・。ありがとう匠ぃ。僕頑張るぅ」
匠は元々運動嫌いじゃないから、なんでも良かったんだって。
僕がジャンケンにあっさり負けちゃったの見て、ペアになってくれるつもりで二人三脚と楽しそうな障害物競争を選んだらしい。
物理的にも匠の足を引っ張らないように頑張ろう・・・。
「俺達も練習付き合うからさ、一緒に頑張ろうぜ」
「そうそう、大丈夫だよ。匠は運動神経良いからちゃんとリードしてくれるよ」
「静〜、陸〜・・・!ありがとう。でも2人はリレー出るんでしょう?付き合ってもらうのは申し訳ないから大丈夫。僕ちゃんと頑張るから・・・!」
2人はシッカリ足速い組だから問答無用でリレーにエントリーされていた。
リレーもバトンの受け渡しとか結構練習いるんだよね?なのに僕に付き合わせちゃうのは申し訳ないし。
「いや・・・、俺は付き合いた「結翔?どうした?」」
静が何かを言おうとした所に蓮先輩の声が被って聞こえた。
あれ?幻聴?蓮先輩に会いたいって気持ちが溢れすぎてついに耳がおかしくなっちゃったのかな?
思わず声が聞こえた方にパッと顔を向けると、教室に入ってくる蓮先輩が視界に入って。
・・・本物の蓮先輩だぁ!?
「蓮先輩・・・?」
キョトンとして蓮先輩を目で追っていると、そのまま近付いてきた蓮先輩が椅子に横座りしていた僕に覆いかぶさるみたいにギュッて抱き締めてくれて。
「なんでそんな眉毛ハの字にしてんの?大丈夫か?」
優しく頭を撫でられながらそんなふうに心配してもらっちゃって、僕もう、なんかこう・・・ブワァアってなっちゃってそのままカチンって固まってしまった。
不意打ちはズルいです!心の準備ができていません〜!!
「えーっと・・・匠、俺の結翔は一体どうしてへこんでんの?」
「ナチュラルにマウント取ってる・・・。じゃなくて!えっと・・・さっき体育祭の出場競技決めしてたんですけど、ゆいは運動が苦手なんです。だから玉入れと綱引きに手を上げてたんですけど、立候補が多くてジャンケンで。ゆい、どっちも負けちゃったんです」
「あー、なるほど。競技決め、結翔には大事な事だったんだな。結局結翔、何に出る事になったんだ?」
「ですです。結局二人三脚と借り人競争に出る事になりました」
「・・・二人三脚?どいつと?」
「あ、僕です」
「お前か。ならいいや。っし、今日は結翔もう帰って良い?練習して帰んの?」
「あ、今日は大丈夫ですどうぞ連れ帰ってくださいませ」
「そうか。じゃあな」
僕が蓮先輩の腕の中でカチンコチンに固まっている間に匠と話がついてしまったらしい。
蓮先輩の腕の中から出てハッと気付いた時には何故か静が机に突っ伏していたけど・・・匠も陸も、大丈夫大丈夫、田原先輩と一緒に帰りな、って言ってくれて。
でも今日の朝もずっと机に突っ伏してたし、さっきまでは大丈夫そうだったけど、本当は体調良くないのかなって心配になっちゃって。
静本当に大丈夫?って声かけたら「あぁ・・・大丈夫大丈夫・・・俺は長期戦だから・・・」って言われた。
長期戦?静、何と戦ってるの?ゲームの話?
ん?ってコテリと首を傾げた僕の手を蓮先輩が取り、クイっと引かれて耳元で囁かれた。
「結翔、大丈夫らしいぞ。早く帰ろう?お昼にオアズケされたデザート、食わせてよ」
お昼にオアズケされたデザート・・・?
あ、ちゅーの事か!?
ブワッと体温が上がってしまった僕は、多分真っ赤に染まり上がってしまったであろう顔を俯かせコクコクと頷いた。
「あー・・・ゆい可愛い。僕も陸とデートしたくなってきた」
「俺はいつでも匠とデートしたいけど?」
「えへへ〜!じゃあ今日は放課後デートしよぉねっ!」
「・・・・・・お前らちょっとは俺に気を使えっていうか頼む慰めてよ」
「え〜?静は長期戦なんでしょ?」
「・・・匠とのデートがぁ」
「友情はどこ行った・・・!」
僕の鞄はいつの間にか蓮先輩に回収されていて、顔を真っ赤に染めたまま手ぶらで廊下に連れ出された僕は、教室内でそんな会話が繰り広げられていた事に気付かなかった。
・・・・・・これはもしや放課後デートというやつなのでは!?
ともだちにシェアしよう!