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え、嫌ですけども⑯

 棒倒しは服を引っ張られて首が絞まったりしたら危険だから、と上裸にさせられていた。  結翔の所に戻るにしてもとりあえず服を着ないと、と待機していた場所に脱ぎ捨てていた団Tを引っ掴んだ。それに袖を通しつつ一応確認しとくか、と一緒に放置していた携帯を見ると匠からメッセージが来ていて眉間にグイッと皺が寄る。匠から連絡が来るなんて結翔に何かあったんだろうか。  『通報です。中嶋先輩がゆいを目隠ししたまま抱き着いて離れませんでした』  ・・・・・・蜜樹め。俺を結翔から引き離しておいて何やってんだマジで。後でシバこう。  俺の結翔なのに、とグイグイ寄っていく眉間の皺をそのままにテントへ戻ろうと足を進めていると、テントの方から誰かが飛び出してきたのが見えて。  元気な奴だな、と思わずそちらに視線を向けただけだったんだが、パタパタと走りながら俺の方に向かってきているのは紛れもなく俺の可愛い結翔だった。  あの走るのすら苦手だって言うような結翔が俺に駆け寄って来てくれてる?と思わずポカンとして結翔の名前を呟くと、俺の呟きが聞こえたのであろう結翔が満面の笑みになって。  正直驚いていてとりあえず俺の結翔クソ可愛いって事しか頭に浮かんで来なかったんだが、そのまま突進してくるような勢いの結翔を受け止めねばとほぼ無意識で腕を広げると自分から俺の腕の中に収まってくれた結翔。一気に頭ん中が可愛い結翔一色に染まった俺はそのまま離すものかと腕の中へ抱き込んだ。  ・・・・・・やべぇ、これ、頑張ったご褒美か?  なんて思いながら結翔の可愛いつむじに頬を寄せようとした時、パッと顔を上げた結翔が頬を上気させて「すっごいすーっごい格好良かったです!」なんて言うから思わず顔がにやけちまった。本当、くそ可愛いやつめ。頭撫でよう。可愛い。  ・・・・・・本当はこのまま結翔を抱きしめてふわふわの髪の毛を梳きながら結翔を堪能したい所だが、日差しが直で当たるココは結翔の肌と体調に良くない。とりあえずテントに連れて行こう。  断腸の思いでされるがままになっていた結翔を離してテントまで誘導したんだが・・・。道中、なんかすげぇ見られてた気がする。俺の結翔を見てんじゃねぇよ、なんてちょっとイラッとしつつも、当たり前かのように隣に座らせて結翔の体調におかしな所は無いかチェックする。聞けばちゃんとこまめに水分取ってたみたいだし、大丈夫そうだ。良かった。  そのままココに居てくんねぇかなぁって結翔の様子を伺ってたんだけど、匠に手を振っていたくらいなもんで腰を浮かせる様子は見せなかったから、このまま俺と一緒に居てくれるつもりなんだなって機嫌が上昇する。やっと念願の結翔とゆっくりする時間が取れそうだ。  あー・・・、結翔との時間は誰にも邪魔されたくなくてさ。てめぇら、邪魔すんじゃねぇぞ?と結翔が見ていない隙にグルリと一周周りを牽制しちまったから近くには誰も座らなかった。結翔が逆隣を見てちょっと不思議そうにしていたのが可愛かったが、誰も近付いてこない理由を聞かれなくて少しホッとした。結翔に怖がられたくねぇからな。  そんなこんなで結翔を独り占めできた俺は、楽しそうに話して楽しそうに応援している結翔を隣の特等席で見れたんだ。最高だな。  

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