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第17話 無いと思っていたけれど
「“みたい”ってなんだよ……」
呆れ顔の誓将先輩に、俺は苦笑する。
「マジで……、マジなんで、フラれたくなくて……」
感じたコトのない熱に、顔が赤くなる。
恥ずかしさに、両手で顔を覆い隠した。
「なに照れてんだよ…。お前の方が、よっぽど可愛いじゃねぇか」
乙女かよ、と笑いを含んだ声で突っ込んでくる誓将先輩に、心を擽られる。
「やっぱ、好き。……なんで。…こんな形で誓将先輩とヤりたくないんで、“お断り”した次第です」
なりふり構わずに、お相手を願うべきだったかもしれない。
下衆だろうが、狡かろうが、フラれたとしても、もう一度だけは確実に出来たと考えると、惜しいコトをしたと悔やまれた。
「んー、オレもお前のコト、好きだけど……。お前は、束縛されんの嫌なんだもんな?」
「ん? 好き?」
誓将先輩の放った単語を慌て拾い上げ、顔を覆う手の中へと投げていた。
「そう。好き。だから、お前の好みの“可愛い”になりたかった……」
指の隙間から、ちらりと覗けば、誓将先輩は恥ずかしさを誤魔化すようにそっぽを向いていた。
桃色に染まった頬の上で、動揺にふわふわと游ぐ瞳が、可愛すぎる。
この可愛さを独り占めできるのなら、悪くない。
「いや。あの……」
意を決して口を開いた筈なのに。
“好きだ”と言われたからには、フラれる恐怖はなくなった筈なのに。
実感が乏しい俺の心は、誓将先輩を目の前に臆している。
二の句を継げない俺に、誓将先輩は浮遊していた視線をこちらへと据え、瞳で言葉の先を促してくる。
「マジなんで、誓将先輩なら束縛されるのも、するのも満更でもないというか……」
好きだから、腕の中に囲いたくなる。
誰にも渡したくなくて、誰にも見せたくなくて、独り占めしたくなる。
少しだけ窮屈で、少しだけ不自由になる。
だけどその分、心が躍る。
「じゃ、付き合うか……って言いたいところだけど……」
途切れた誓将先輩の言葉に、今度は何を言われるのかと、指の隙間から顔色を窺う。
「…だけど?」
先を促す言葉に、誓将先輩のジト目が、俺を射る。
「セフレは、ちゃんと切ってくれないと嫌だ」
むっと膨れて見せた誓将先輩は、拗ね顔のままに言葉を繋ぐ。
「お前の嫉妬と同じ。オレだって、お前が他のヤツとヤってんのは、我慢ならねぇ。そのくらいのヤキモチは妬く」
嫉妬なんて、面倒で汚くてウザったいものだとしか思っていなかった。
ヤキモチを妬かれるコトが、こんなに嬉しいだなんて、初めて知った。
嫉妬して膨れている誓将先輩が、愛おしすぎた。
顔を隠していた両手を取っ払い、じっとりとした半目で俺を見やっている誓将先輩の尖った唇に、衝動的にキスを見舞っていた。
俺の不意打ちに驚いている誓将先輩に向け、満面の笑みを浮かべた。
「俺の周り、話は通じる奴らなんで。恋人が出来たら、……浮気や不倫になるようなセックスはしないって約束を守れるヤツしかいないんで、問題ないです。全部綺麗にぶった切ります!」
ニカッと歯を見せる俺に、誓将先輩の口角も緩く上を向く。
「お互い周りがスッキリしたら、改めてデートでもするか」
誓将先輩が、ないと思っていた“可愛さ”。
違う角度から覗く俺の目には、ずっと前から見えていた。
俺が、ないと思っていた“恋心”。
本気になった俺に、それが、ぴょこりと頭を出す。
まるで、草花の芽のように。
これから大切に、育てていこう。
好きという気持ちと、触れたいという欲望と、嫉妬という劣情と共に。
【 E N D 】
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