16 / 17

第16話 うっすら濁して誤魔化して

 知らないフリを続けていたら、誓将先輩はまだあそこで働いていて、指名すれば金で買えた。  もう少し黙っていれば、何度かは、お相手願えたかもしれない。  邪な自分を払い落とすように、頭を振るう。  “良かったですね”と笑んだ筈の俺の顔が、微妙に引き攣ってしまった。 「そ、そうだな」  苦笑いのような俺の瞳に、不安げな誓将先輩の顔が映った。 「不安なら、俺も一緒に……」  1人で対峙するのが不安なのか提案する俺に、誓将先輩は、首を横に振るう。 「いや。大丈夫だ……、ありがと。でも、どうやって、お前にお礼すればいいんだよ」  困惑気味に首を捻った誓将先輩が、閃いた顔で俺を見やった。 「メイド服でも着るか? また、口でやってやろうか?」  ほんのりと赤くなる頬を誤魔化すように、ふわりと逸れた誓将先輩の視線が、クローゼットへと投げられる。 「いや。いいっす」  食い気味に断る俺に、誓将先輩は不満げな顔をする。  お礼なんていらないし、こんな形で誓将先輩を手に入れても、嬉しくもなんともない。 「前にも言いましたけど、俺、そのままの誓将先輩も充分可愛いと思ってますし、抱けますよ」 「じゃ、今、ヤるか?」 「いや。シないです」  誓将先輩のお誘いの声に被るように、遠慮の言葉を放った。  俺の返答に、不満を隠そうともしない誓将先輩が噛みついてくる。 「なんで断るんだよっ」  むすっとした声で、文句を垂れられた。 「嫉妬……、したんすよ」  俺の言葉は、誓将先輩を余計に困惑させた。  意味がわからないと眉根を寄せる誓将先輩を置き去りに、俺は言葉を繋ぐ。 「この辺がジリジリしたのは、ヤキモチです。俺、誓将先輩のコト、マジで好き……みたいで」  心臓が、バクバクし始める。  今までなら、…恋愛感情のない相手になら、簡単に言えたんだ。  “可愛い”だとか、“好き”だとか。  そこに心が乗らなければ、上部だけの言葉なら、簡単に吐けたんだ。  でも、本気の想いは、簡単に形を成してはくれなくて。  嫌われたくないとか、フラれたくないとか。  恐怖が先にきて、“みたい”なんて言葉で、うっすらと濁して誤魔化した。

ともだちにシェアしよう!