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第15話 嬉しい筈なのに <Side 阿久津
誓将先輩の口から放たれた名に、聞き覚えがあった。
ここを教えてくれたのは、俺のセフレの1人、バーで働いている男、ルカ。
バーよりも簡単に沢山稼げると、オレが口を利いてやるから働かないかと勧められたらしい。
その斡旋してきた男が、“ハルキ”という名だった気がした。
つい先日、ルカと会った時。
ハルキからマージンの話を聞いていなかったルカは、半分が紹介者の懐に入るコトを耳に挟み、憤慨していた。
「なんでオレがあいつのツケ、払わなきゃいけねぇんだよっ」
セックスの後、ベッドの上でごろごろと転がりながら愚痴るルカ。
思い立ったように脱ぎ捨ててあったジーンズのポケットを探ったルカは、何かを取り出し、照明に翳す。
「女王様がオレのコト気に入ってくれててマジ助かったわ」
ルカの手に摘ままれているのは、小さなSDカードだ。
ルカのいう“女王様”は、たぶんSM クラブで働いているというバーの客だ。
「それなに?」
脱ぎ散らかした服を拾いながら問う俺に、ルカは、にししっと狡く笑う。
「プレイ動画。晴樹が女王様に虐められて、ひぃひぃ言ってるヤツ。ツケの担保に撮ったんだって。んで、しつこく来るようなら、これでも見せて追っ払いなさいって、女王様がくれたの。ま、1回きりで、その後、誘われたコトないんだけど」
呼び起こした記憶に、ハムラビ法典の文言を思い出し、にやりと笑ってしまった。
後日、ルカに譲ってもらった動画を手に、誓将先輩の家を訪れた。
「これ、なんすけど……」
誓将先輩に家にあるパソコンで、動画を再生した。
縛られ、鞭で打たれながらも恍惚の表情でカメラのレンズを見やる男。
顔を確認した誓将先輩は、驚きにあんぐりと口を開いていた。
「間違い、ないっすか?」
首を捻る俺に、はっと意識を取り戻した誓将先輩は、首を縦に振る。
「これと引き換えに、誓将先輩の映像を消してもらえば、自由っすよね? あそこ辞めれますよね?」
誓将先輩があの仕事を辞められるのは、嬉しい。
嬉しい筈なのに、俺の手が届かなくなると思うと胸が軋んだ。
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