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第14話 盗撮には盗撮を

 何を言いたいのかピンと来ず訝しむオレに、阿久津は、あからさまな咳払いをして、話題を変える。 「俺の気持ちは、どうでもいいんですよ。……それより、ここの稼ぎの半分は持ってかれるとか言ってましたよね? 働かされてるってコトっすか…? ここにいるの誓将先輩の意思じゃないってコトっすか?」  ぐいぐいと遠慮なく詰めてくる阿久津に、オレは溜め息混じりに口を開く。 「好き好んでここで働いてると思ってるお前こそ、オレのコトとんだ好き者(スキモノ)だと思ってるじゃねぇか」  じとりとした瞳を向けるオレに、うっと息を詰まらせる阿久津。  肩を落とす阿久津を尻目に、オレは言葉を繋いだ。 「この格好でオナってんの撮られたんだよ」  今さら隠しても仕方ないと、さらりとゲロった。 「周りにバラされたくなかったらここで働けって言われたの」  脅されているとしても、素直に晴樹の言うコトを聞き、大人しくここで働くという選択をした自分が情けない。  思ったところで、現状を覆せるほどの力などない。  バラせばいいなんて開き直れるほど、オレは強くない。 「碌でもねぇ……」  嫌悪感を隠そうともせず放たれた阿久津の声が、胸に刺さる。 「そうだな。オレは、碌でもねぇよ。周りにバレて、弾かれんの嫌で……、ちぃせ…っ」  落ちていく気持ちと共に俯いたオレの顔が、大きな手に包まれた。  ローションだの精液だのが混ざりあった液体は、なかなか乾かずに、オレの頬にぬちょりと貼りつく。  思わず顰めた顔を上げさせられ、叱るような阿久津の瞳と視線が絡んだ。 「碌でもないのは、誓将先輩じゃなくて、脅してる方でしょ。……誰?」  柔らかく叱る声の後、漏れた苛立ちが音に乗る。  頬に、ねっとりと塗られた粘液が、オレの思考を阻害した。 「誰って……。お前の知らないヤツだよ」  気持ち悪さに顔を歪ませるオレに、阿久津は、はっとし手を離す。 「ごめんなさいっ」  阿久津は慌て、手の甲でぐいっとオレの頬を拭いつつ、言葉を繋いだ。 「……マージンを半分、引っ張れるってコトは、少なからずここと繋がってるんすよね?」  阿久津と晴樹は、縁もゆかりもない相手だ。  引かない阿久津に、名前くらい教えたところで、わかる筈もないと、名を告げた。 「晴樹。“美納 晴樹”っていうオレの従兄弟だよ」  知らねぇヤツだろ? と、瞳で問うオレに、阿久津は考えあぐねるように視線を飛ばす。  すっと視線を戻した阿久津が、にやりと笑んだ。 「なんだよ、その顔……」 「“目には目を歯には歯を”…、“盗撮には盗撮を”、ですよ」

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