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第13話 胸の内にしまう言葉

 阿久津は、男の娘のオレ相手に勃起したのだから、身体でなら払えるか……。 「あー、性処理なら手伝えるか。この格好で相手をすればいいだろ?」  挨拶をするように、スカートの両横を摘まみ上げて見せる。 「いや。俺、普段の誓将先輩でも抱けますけど?」  脈略のない阿久津の言葉に、オレは顔を曇らせ、口を開く。 「は? お前、小さくて可愛いコがタイプなんだろ? 心外だけど、小さいは認めてやるよ。でも、普段のオレのどこに“可愛い”の要素があるんだよ……」  呆れた瞳を向けるオレの視線の先で、阿久津は、きょとんとした顔を曝す。 「なに言ってるんすか? 誓将先輩、普通に可愛いっすよ」  今度はオレが、ぽかんとなる。  放心しているオレに、阿久津は納得顔で言葉を繋ぐ。 「“可愛い”の基準って、千差万別じゃないですか。誓将先輩が認めなくても、俺は勝手に“可愛い”って思ってるんで。俺から見た誓将先輩は、間違いなく“可愛い”です」  可愛いを連呼した阿久津は、はっとしたように口を噤んだ。  申し訳なさそうにオレの顔色を窺う阿久津に、じとりとした瞳を向けた。 「……嫌、ですよね。俺に可愛いって言われても、なんの得もないし、どうせならカッコいいって思われたいだろうし……」  すいません…と、申し訳なさそうに謝ってくる阿久津に、気が抜ける。 「別に。可愛いって言われんの、嫌じゃねぇよ」  “お前になら”という接頭語がつくコトは、胸の内にしまっておく。  もっと、ギスギスとした緊張感のある空間だった。  なんで、オレが可愛い可愛くない論争になってるんだ?  オレの言葉にほっとしたのか、阿久津が再び不服を漏らす。 「てか、口止め料ってなんすか? 俺、言い触らしたりしないっすよ。そんな口の軽いヤツに見えてるんすか? 弱みにつけこむクズ人間だと、思われてるんすか?」  心外だと言わんばかりに、阿久津の口が尖った。  晴樹に盗撮され、それをネタにゆすられているオレは、猜疑心の塊だ。  秘密を知った人間、誰もが敵に見えていた。  阿久津も、どうせ同じだと決めつけていた。 「悪かったよ」  小さくて可愛いければ、誰でも抱けるとさらりと言って退ける阿久津。  その上、金を払ってでも、小さくて可愛いコとエロいコトをしようと、ここを訪れているんだ。  オレがここで働いていようが、女装癖があろうが、阿久津にとって脅すほどのネタじゃないというコトだろう。 「でも、脅すつもりがないなら、気づかないフリで通してくれりゃ良かったじゃねぇか……。確認するってコトは、それをネタにって普通、考えるだろ?」  オレの疑問に、阿久津はバツか悪そうに顔を顰めた。 「あぁ……、黙ってようと思ったんすよ? でも、ムカついたっていうか、悔しいっていうか…この辺がじりじりするっていうか……」  珍しく、阿久津の言葉の切れが悪い。  ちらちらと向けられる視線は、オレの顔色を窺う。

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