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第12話 オレにそこまでの気概はない

 オレが男の娘専門の風俗店で働いているのは、従兄弟に弱みを握られたからだ。  1ヶ月ほど前の話。 「よぅ。チカ」  当たり前のようにノックもなしにオレの部屋に入ってきたのは、5つ上の従兄弟、晴樹(はるき)だ。  手にしているスマートフォンを操作しながら、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべ、近づいてくる。 「いいもん見せてやるよ」  ベッドの上に座り、漫画を読んでいたオレの真横に、どかっと腰を下ろした晴樹は、オレの目の前にスマートフォンを据え、動画を再生する。  そこに映っていたのは、女装姿で自慰をするオレの姿だった。  場所は、オレの部屋。  映像に音はなく、アングルの変わらない画角に、盗撮だと気づく。  驚きに、頭が真っ白になる。  無意識に、画角からカメラの位置を探る。 「クローゼットの奥に女物の服とか、大人の玩具とか、あんの知ってたんだよね」  オレの瞳の動きに、晴樹は支配者の笑みを浮かべた。 「お前のスマホから連絡先、パクってあるから。暴露されたくなかったら、口止め料ちょうだい?」  キッと睨みつけるオレに、晴樹は臆するコトなく、子供が親に小遣いをせびるような声色で手を出してきた。 「なんでだよ」 「ツケ、払えなくなっちまってさ。男の娘、紹介したらそのコの稼ぎの半分、マージンでくれるっていうし。お前なら、それなりに稼げそうだし…半年くらい頑張ってくれれば返せると思うんだよね」  悪びれもせずに、にっこりとした笑みのままに言葉を紡ぐ晴樹。  金が必要な理由なんて聞いてない。  口止め料なんて払う謂れはない。 「可愛い服も着れるし、金も稼げるし、一石二鳥だろ? 秘密も守れるって考えたら、一石三鳥じゃん。すげぇ、お得じゃね?」  言葉を失うオレに、晴樹は畳み掛けてくる。  お得でも、なんでもない。  だけど、バラしたければバラせばいいなどと言える気概はなかった。

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