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第11話 当たり前の対価
完全メイクのオレは、自分でも目を疑うほど綺麗な化けっぷりで、正体がバレるかもしれないなんて微塵も思わなかった。
声だけは誤魔化しようがないと感じたオレは、喋らないという選択をした。
じっとオレを見詰める視線に堪えられなくなり、“チェンジするか”と指先で示した。
阿久津は、はっとしたように息を吸い込み、チェンジはしないと両腕を広げる。
甘えるように阿久津の膝に触れ、上目遣いに見詰めてみた。
阿久津を煽ろうとしたのに、次第にオレの方が恥ずかしさを凌駕する興奮に包まれる。
気がつけば、すっかり阿久津のペースに飲まれていた。
性欲を解消した直後、阿久津は、オレの正体を暴きにかかる。
一瞬、しらばっくれてやろうかと思ったが、オレだけが阿久津の秘密を握るのは、狡い気がして、口を割る。
思っていた反応ではなかったのか、そうだと認めたオレに、阿久津は残念そうな顔をした。
考えれば、阿久津は自分の性癖をオープンにしているのだから、男の娘専門の風俗を利用していたコトを暴露されたところで、なんの支障もない。
この事実は阿久津にとって、秘密でも隠し事でも、なんでもなかった。
オレが、気遣う必要などなかったのだと、気がついた。
対してオレは、女装癖もゲイであるコトも、隠している。
女装は、けっこう前からの趣味だった。
可愛い服を着たいとか、綺麗に着飾りたいという願望は元々あった。
阿久津の好みの“小さい”という面は、ギリギリ当て嵌まっても、オレに“可愛さ”なんて無い。
“小さくて可愛いコ”が好きだという阿久津の言葉が、オレの女装癖に拍車をかけたのは、事実だ。
女装する回数が増え、その姿のままに阿久津に抱かれる妄想で自分を慰めたりもした。
オレの方が、断然、立場が弱かった。
阿久津もきっと、あいつと同じように、内緒にしておいてあげるからと見返りを要求してくるのだろうと諦めた。
重く長い溜め息が、口から零れた。
「……お前も、口止め料払えとか言うんだろ」
きょとんとした瞳を見せた阿久津は、暫し固まる。
正体を確認してくるというコトは、弱みを握ったと告げてくる行為で。
秘密を守りたいのなら、対価を払えというのが世の常だ。
「金は、あんまり払えねぇよ。ここの稼ぎの半分は持ってかれるから……」
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