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第10話 来るもの拒まず去るもの追わずの体現版 <Side 誓将

 相手が阿久津だとわかった段階で、チェンジしてもらうべきだった。  でも今さら、思っても後の祭りだ。  ゆるふわパーマの真っ黒マッシュから覗くのは、キリッと男前な眉と、綺麗な漆黒の瞳。  すっと伸びた鼻筋に、薄い唇の大きな口。  威圧すら伴う無表情から繰り出された人懐っこそうな笑顔に、オレの心は、初対面で簡単に撃ち抜かれていた。  惚れるなって方が、無理だった。  こいつの笑顔は、犯罪級だ。  その上、身長190超え、体重80キロそこそこの締まった身体と、然り気無い優しさ。  阿久津の利点は、上げだしたらキリがない。  欠点は、ただひとつ。  下半身が、だらしないというコトだけなんだ。 「彼女? 恋人なんて面倒なだけじゃん。俺、スッキリ出来ればそれでいいし。セフレで充分。縛られたくねぇし」  同期の奥野(おくの)に彼女の存在を聞かれた阿久津は、さらりとそう答えていた。  束縛も、嫉妬も、気に食わない。  温もりも、愛も、要らない。  ただ処理をして、スッキリ出来れば、それで良い。  阿久津にとってのセックスは、独りで処理をする虚しさを感じない為のもの。 「そんな都合の良い相手、どこで出会うんだよ……」  阿久津のモテ方に、呆れる話し相手の奥野。  奥野の愚痴染みた言葉にも、阿久津は真面目に受け答える。 「OLのおねぇさんはバーで会って、そのバーのバーテンの兄ちゃんも、たまに誘ってくっかなぁ……」  バーで会ったからって“さぁヤりましょう”とはならないだろ。  そこまでの経緯を聞きたがってんだろうが。  心の中で突っ込みながらも、2人の会話に聞き耳を立てる。 「お前、男にまで手ぇ出してんの?」  驚きの声を上げる奥野に、阿久津はあっさりと返答する。 「ん? だって、俺、ちっちゃくて可愛かったら大体、抱けるし」  阿久津には、性別なんて関係ないらしい。  抱けるなら、誰でもいいし、拒まない。  そこには、恋愛感情なんて無くて。  嫌われたらどうしようと後込(しりご)みするとか、相手を大事にしたいから手を出さないとか、そんな選択肢もない。  来るもの拒まず去るもの追わずの体現版だ。  でも、金を払ってまでスッキリしたいとは。  どんだけ性欲、持て余してるんだよ。  バスローブ姿でベッドに座っている阿久津を認識した瞬間、呆れの気持ちが顔に出ていた。

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