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第9話 予想外の言葉、遅れる反応

 誓将先輩がここで働いているのは、たぶん金のため、…割がいいからだろう。  俺の頭では、そのくらいの理由しか思いつかない。  単純に遊ぶ金欲しさなのか、本当に金に困っているのか…、まぁそんなのは、どうでもいい。  俺に見つかったとわかれば、誓将先輩は頼まなくても、ここを辞めてくれるかもしれないという淡い期待が胸に沸く。  ここを辞めてくれれば、今後はこんな可愛い先輩が知らない輩の目に触れるコトもなくなる。  誓将先輩は、シラを切り現状を脱し、ここを辞めてくれればいいだけだ。  そうしてくれるのならば、俺は気づかなかったフリを続ける。  この先の無駄な嫉妬も(いだ)かなくて済む。  俺の放った言葉に、誓将先輩の表情が、みるみるうちに歪んだ。 「そうだよ」  聞き慣れた誓将先輩の声が、返ってきた。  投げ遣りに声を放った誓将先輩は、翻ったままのスカートを直しながら、俺の下からもぞもぞと抜け出す。  知らないフリは、してくれなかった。  ……やっぱり俺が、気づいていないフリを続けるべきだったのかと、後悔する。  だけど、()せなかった。  俺にしたのと同じように、他の男に奉仕している姿が思い描かれ、腹が煮えた。  ベッドの上にぺたりと座った誓将先輩は、心底嫌そうに顔を歪めた。 「お前もかよ」  ぼそりと放たれた誓将先輩の言葉の“も”という文字が、俺の思考に引っ掛かる。  既に、誰かにバレていたというコトなのか。  俺の理由とは違っても、そいつも“ここを辞めろ”と諭したのかもしれない。  でも、辞めていないというコトは、知り合いにバレたからと、簡単に辞める程度の気持ちじゃないってコトで。  この仕事、そんなに割がいいのか……。  俺は、どうやってこの仕事を辞めさせようかと、考えを巡らせる。  はぁっと、あからさまな溜め息を吐いた誓将先輩が、言葉を繋いだ。 「……お前も、口止め料払えとか言うんだろ」  予想外の誓将先輩の言葉に、一瞬、理解が遅れた。

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