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春雷 16
ほっしーが帰ってからも、さっき言われた言葉が頭の中をぐるぐると駆け巡る。
目をギュッと閉じて布団を頭まで被り、気持ちを整理しようと試みるけど、
思えば思うほど、あちこちに転がってく感情。
散らばっていくようで、必死にかき集め手繰り寄せる。
ムカついて、大嫌いだって思う以上に、別の感情が膨らんで、
気付かないフリをするのも────
もう……
限界かもな。
例えそうだとしても、ほっしーの言ってたことを容易く信じられるほど俺は強くないから、
橘に確かめるまでは信じられない。
また突き放され、“気晴らしだ”と言われるかもしれない。
突き放されるほど気になるなんて女みたいで自分がイヤになるけど、
これも橘の思うツボなのかもしれないけど、
それでもいいと思ってしまった俺は救いようのないバカだ。
息苦しくなって顔を布団から出すと、ひんやりと体中が冷めていく。
部屋の隅に掛けられた制服と一緒に吊されてる赤いネクタイ……
────⋯⋯いつか必ず、惚れさせてやるよ
初めて橘に会った時、そう言われたっけ……
遥か昔のことのように思えるけど
………いつかって、
「ずいぶん早く訪れたもんだな……………はは」
静かな部屋に響く乾いた声
赤いネクタイを眺め、ため息混じりに力なく笑った。
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