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想いの証 11

鼻を擽る橘の黒髪に顔埋め、小さく息を吸い込むとアロマみたいな落ち着くいい香りがした。 どんな状況であれこうしていると不思議と落ち着く。このまま二人まったりしていたいけれど、まだ聞かなきゃならないことがある。 空気を断ち切るようにまた1つ俺は疑問を投げ掛けた。 「なぁ?俺のこと突然苗字で呼ぶようになったのもそれと関係してんの?」 「あぁ。黒瀬にオレが好きなやつが渚ってばれないように、念のために。」 「それ、自分の意志で決めたんだよな?」 「そ…うだけど」 「だけど、なんであんな苦しそうな顔してたんだ?」 俺を“相原”と呼ぶ橘の眼差しは俺を突き抜けたその先を見てた。 あの時の俺にはその理由も目的も橘の心の中もまだわからなかったからそれ以上考えもしなかったんだ。 だけど、すでに橘は何かから俺を守ろうと必死だったんだろうな…… 俺の言葉の後、俺を抱きしめてる体が微かにびくっとした気がして、 「………渚、オレ………さ」 たぶん、もう1つ理由があるんだと思う。 俺には言えない理由。 これ以上問いだしてもホントの理由は言ってくれない気がして、もういいよ…ってその黒髪をそっと撫でた。

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