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第7章 愛しくて、優しい……人 1

* マンションのエントランスに入るとほんのり温かく、騒ついてた気持ちが少しだけ落ち着いた。 手慣れた手つきで暗唱番号を押し、オートロックが解除されるカチッという音が静かな空間に響きわたる。 「なぁ?いい加減手放せよ。」 エントランスは外とは違って明るい。 誰かに見られたらと思うと恥ずかしくて、エレベーターを待つ間言ってみた。 「……………。」 やっぱり、何も言わない。 どうしちまったんだ、いったい…… そうしてる間に、エレベーターが来て乗り込むと更に沈黙。 「おい、どうしたんだよ?」 「…………別に。」 「何か俺、気に障ること言った?なんでさっきから黙ってんだよ。」 何も言わない橘の横顔は、ひたすら階数ボタンの点滅を眺めてるだけで、俺を見てくれない。 まさか、俺が嫌いって言ったからショックで落ち込んでる……とか。 いやいや、俺様なのにそんなはずはない。 それにそのあと好きってちゃんと言った、し……… 橘だって俺のことだけ好きって言ってたし…… 何が何だかさっぱりわからない。 「………渚?」 「えっ?」 「…………部屋着いたら話すから。」 わけもわからぬまま、 俺を見ることなく告げられた言葉は、 俺を更に不安にさせる……

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