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愛しくて、優しい……人 3

「………渚?………おい、」 「あっ、………え?」 「着いたから先入れよ。」 複雑な気持ちのままぼんやり歩いていた俺は気付いたら部屋の前まできてて橘の声で我に返る。 カードキーで鍵を解除してドアが開かれ促されるまま中に入ると、まだ1日しか経ってないのになんだかすごく懐かしい気がした。 「おじゃま…………っ!?」 そして玄関に入りドアが閉まる音と同時に、橘に背後から抱きしめられた。 「…………なに?!……ど、」 「……………………オレ、」 まだ靴も履いたままなのに、その腕は俺を強く抱きしめる。 「……オレ、渚を好きでいる資格ない」 なに……? 今何て言った?! ギュツと抱きしめられる腕の中、心臓の音だけがうるさいくらい脈を打つ。 「………………。」 「………オレは、渚のことになると、………余裕がなくなるんだ。好きなのに、さっきみたいに傷つけてしまう。」 ………なんて答えたらいいかわからない。 そんなこと言われるなんて絶対にないと思ってたから。 資格があるとかないとかの問題の前に、余裕がないのはいつも俺の方で、橘はいつだって余裕で、俺の事は全てお見通し……… だから──── え、…………もしかして 残り1%って………これ? 「あのさ……もしかして、橘も…不安になったりするの……?」 「…………なるよ。渚だから不安になるし、余裕がなくなる。」 「……様子がおかしかったのって、それが関係してるって、こと?」 「……………あぁ。」 「俺のこと、………嫌いになったのか…と、思った………」 まさか自分がこんなことを聞く日が来るなんて…… 「んなわけあるかよ。………好きだよ。」 そして耳元から囁かれた低い声が身体中を駆け巡り、安堵感で満たされていく。

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