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アイツのいない世界 39

『………違う。』 そう言う橘の声は、少しだけ寂し気に聞こえた。 「違うって………」 『オレがただ渚に持ってて欲しいだけ……それに、待ってろとは言ったけど、……それを返す時、渚の答えを聞かせてくれればいい。』 俺の答え……… 『オレが帰って、渚に全て話す時……正式にもう一度あの日の事を言うつもりだから、半年考えて欲しいんだ。』 「俺が、万が一………」 万が一、俺が他に好きなヤツが出来たとしたら、こいつどうなっちゃうんだろう… 『……大丈夫。どっちでも覚悟はしてるから。オレが勝手に好きになって巻き込んだんだ……それぐらいの覚悟は、渚を好きになった時からしてるよ。』 「巻き込んだ……なんて、そんな……俺は思ってないけど!」 『………そっか……ありがとな。』 わからないけど、また涙が溢れてきた。 そして今、俺の体中を充満させている感情……… 橘に……… 会いたい…… 「た、たちばな……?」 『なに……?渚…?』 こいつが俺を“渚”と初めて呼んだ時から何回も聞いてきた、俺を呼ぶこの声…… 今となっては、俺を呼ぶこの声が大好きだ。 もっと呼んで欲しい、 もっと近くで、 もっと触れられる程近くで、 もっともっと近くで…… だから、 「………会いたい」 『……………渚………』 「………俺、おまえに、会い……た、い……」

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