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0話-①:百億分の1の奇跡
「突然だけど、唯 にはユニットを組んでもらおうと思う」
社長から呼び出され、本当に、それは突然告げられた。
ある人に憧れて、この世界に飛び込んで早三年。大学卒業と同時に入った煌びやかな世界は想像以上にハードで、その裏側は大人の思惑が絡み合い複雑だった。でもテレビの前の人を楽しくさせるという事だけは変わらず、精神だけがすり減る中、俺の心の癒しはたった一つ。そう、箕輪樹李 という存在だった。
箕輪樹李、子役出身の二十六歳。圧倒的スター性を持ちながら、それに甘んじる事なくストイックにファンを魅了し続ける、まさに神様に愛された天才かつ秀才。大きな猫目と愛らしいルックスに成人男性らしからぬ透き通ったアルト。俺が人生の底に居た時、救ってくれたのは樹李君だった。
ここまで俺が樹李君への想いを連ねている理由は信じられない事が今目の前で起こっているからだ。ユニットの相手になる人ね、と紹介する社長の隣にいるのはその、箕輪樹李、本人だったからだ。
「箕輪樹李です。これからよろしく」
はわわ……樹李君が俺に、俺に手を差し伸べてる……!白くてすべすべな手が、目の前に……。なんて言う事だ、え、これは夢? 確かに俺は樹李君を追っかけて樹李君と同じ事務所に運良く所属出来た。だけど、え、本当に……嘘じゃないよね? これで嘘とか言ったら俺は社長諸共ビルから飛び降りるからな。
固まっていた俺に不思議そうに首を傾げる樹李君。しまった、ついトリップしてしまっていた。俺も慌てて樹李君の高貴な手に自分の手を恐る恐る重ねる。
「木ノ瀬唯 です。よろしくお願い致します。箕輪さんとユニット組めるなんて光栄です」
粗相はなかっただろうか、樹李君をじっと見つめると困り眉のままニコリと笑う。
「これから一緒に頑張る仲間なんだから敬語なんてやめてよ。樹李ってよんで」
いくら神からのお言葉とはいえ、いや、神だからこそ言わせてもらう。それは無理です! そんな事をしたらバチが当たって俺の五代先の末裔まで呪われる。五代先が果たして末裔と呼べるのかというのは置いておいて。
樹李君はまたもやこてん、と首を傾げて俺の顔を見つめる。そんなキラキラした瞳で見ないで。俺の眼球が焼ききれる。
「……わかった。その代わり俺の事も唯って呼んで欲しい」
苦し紛れに言うと、樹李君はありがとう、と満面の笑みで返してくれた。タダで樹李君と握手しちゃったよ。どうしよう、どうもしようがないんけど。CD何枚積めばこんな徳詰めるんだ……? いやこれからその歌を一緒に歌うのか。いや、改めて考えても死!!
俺の心の葛藤なんて露知らず、こうしてjuryuiは結成されたのだった。
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