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0話-②:百億分の1の奇跡
樹李、ソロではなくてユニットとして改めてデビューしてもらう、と社長に言われて待合室で待ってるとそこに現れたのは僕が密かに推している木ノ瀬唯だった。
生で見ると顔小さいし、キリッとした細眉に目鼻立ちがはっきりした顔、それに僕とは違ってスラリと背が高い。もちろん見た目も好きなのだけれど、何より好きなのは色っぽくて艶のある声。初めて事務所に来て挨拶された時、そのイケメンボイスにクラクラしてちゃんと返事が出来なかった程だ。
まさかと思うけど、僕の相方って、その木ノ瀬唯……?
社長を一瞥すると素知らぬ顔で話を進めていた。この人確信犯か。確かに僕もソロでやるよりもユニットで、誰か僕じゃない人に僕の曲を歌って欲しいって言ったけど……言ったけど!
そんな、木ノ瀬唯が僕の歌をうたってくれるなんて、どんなご褒美?どうしよう、上手く箕輪樹李で居られるだろうか。
それに僕には社長とマネージャー以外秘密にしていることだってあるのに。
そう、僕は仕事の時はしっかり者で天真爛漫な愛されキャラでいられるんだけど、オフの時――チョーカーを外した時――はドジでノロマになってしまうのだ。
思わず首元のチョーカーを触る。大丈夫、ちゃんとしてる。取れてない。
大ファンの木ノ瀬唯の前でそんな失態を見せられない。何としてでも秘密を守り通さなくては。
僕は毅然とした態度で木ノ瀬唯の前に進み出て、手を差し伸べる。
「箕輪樹李です。これからよろしく」
木ノ瀬唯は僕の差し出した手をじっと見つめてその場から全く動かない。握手なんて馴れ馴れしかった……?でも木ノ瀬唯は僕にもいつも気さくに、爽やかな後輩然としているから、そんな事は言わないはず。
この場の空気しかり、どうしたものかと考えあぐねているとそっと唯君の手が重なる。
「木ノ瀬唯です。よろしくお願い致します。箕輪さんとユニット組めるなんて光栄です」
木ノ瀬唯の節くれだった指が緊張を帯びていて、きゅっと身が締まる。何をしているんだ、僕は木ノ瀬唯の先輩だろ。堂々と、いつでも"アイドルの箕輪樹李"たれ、そう心に誓ってきたじゃないか。
「これから一緒に頑張る仲間なんだから敬語なんてやめてよ。樹李ってよんで」
その後木ノ瀬唯は一瞬百面相をした後、俯いてしまう。サラサラで綺麗な髪から覗く耳は真っ赤になっていた。
「……わかった。その代わり俺の事も唯って呼んで欲しい……!」
いいの?そんなご褒美貰っちゃって。ファンである木ノ瀬唯を下の名前で呼び捨てなんて。自分から言ったことだけど、いざ自分の立場になると動揺してしまう。
どうしよう、このままで僕はちゃんとアイドルで居られるだろうか。いつかチョーカーをしていても元の性格が出てしまうんじゃないかと今からヒヤヒヤしてしまう。
僕の悩みは棚に上げられ、こうしてjuryuiは結成されたのだった。
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